昨年破産「ガイナックス」の迷走を象徴する“トマト”とは…“アニメと農業”の意外な親和性
味も良く、評判だった
店内には「新世紀エヴァンゲリオン」を筆頭に歴代作品のフィギュアが並び、独特の空間だったようである。しかし、ネット上には詳細な情報が少ない。筆者の知人で、「トップをねらえ!」から「エヴァ」までほとんどのガイナックス作品を視聴しているアニメオタクによると、「ネタ感覚で行こうと思っていたら、いつの間にか消滅していた」そうである。
どうやら、知人と同じように、ネタとして行くつもりが、その前に閉店してしまった――そんな人が多かったようである。いずれにせよ、それまでのアニメの実績とはまったく関係のない異業種への進出は、ガイナックスの迷走の象徴のように語られることも少なくない。ところが、このガイナックストマト、なんと事業としては“黒字”だったようだ。当時のガイナックスを詳しく知るA氏は、こう話す。
「ガイナックストマトの事業自体は黒字だったと聞いています。もちろん、ガイナックスの社屋で栽培が行われていたわけではなく提携農園が生産していたのですが、味も良く、評判だったようです。ただし、この頃のガイナックスは経営の安定化を図るために作品の版権を相次いで手放すなど、迷走続きだったことは否めませんね」
農作物とアニメは相性が良い?
思えば、ガイナックスに限ったことではなく、異業種から農業や農産物の販売に進出する例は意外に珍しくない。地方創成がブームになり始める前から、芸能界やファッション業界まで、広告代理店をも巻き込み、様々な業界が農業に熱視線を送った。農業がかっこいいという風潮を流行らせようという人たちもいた。
しかし、そうした取り組みはことごとく失敗に終わり、10年以上継続できたものはほとんどないのではないか。2001年にはあのユニクロが農産物の販売を始めたことがあったが、赤字続きとなり、撤退したほどである。天候などにも左右されるうえ、農作物は消費期限が短いこともあって、一朝一夕に取り組むのは難しいといえる。
ガイナックストマトが撤退してしまった背景には様々な事情があるようだが、存続していればゆくゆくはトマト農家が主人公のロボットアニメでも制作して、神戸市がアニメの“聖地化”していた可能性も高い。
2008年には秋田県羽後町のJAうごが西又葵氏のイラストをプリントした「美少女イラスト入りあきたこまち」を販売し、記録的な売上を出すヒット商品になったこともある。農作物と美少女イラスト、アニメ、サブカルチャーは案外親和性が高いといえるのかもしれない。農業に参入する次なるアニメ会社の登場に期待したい。
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