「タイミーさん」は30年前なら「フリーター」 人は“自由”“好きなように”という言葉に弱過ぎる(中川淳一郎)

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 連合の調査では、短時間かつ単発の仕事に就く「スキマバイト」で46.8%がトラブルを経験したそう。複数回答可のアンケートで「仕事内容が求人情報と違った」が19.2%で最多。そのほか上位に「業務の指示や教育が不十分」「賃金や労働時間などが求人情報と違った」「賃金の未払いや支払い遅延があった」とあります。まさに“うまい話には裏がある”ですね。

 利用者はスキマバイトのサイトやアプリに登録し、求人を見て「これ、私にぴったり!」と応募する。しかし、結果は前述のとおり。

 業者の一つ、タイミー社を検索すると、予測変換で「やめとけ」と並んで表示されます。そのため同社は「『タイミーはやめとけ』と言われる理由は? 利用時の注意点や実際のレビューを紹介」というページを設け、注意喚起、火消しを行っています。

 ただ、スキマバイトについては利用者も過度な待遇は求めるべきではないんですよ。「好きな時間にできる」「家でも可」「助っ人的な仕事で煩わしい人間関係がない」。そんな“快適な業務”が高額報酬をもたらすなんてあり得ません。そもそも正社員の場合でも、出社と退社は定時、リモートはもう禁止!という状態に移りつつあります。

 新しい働き方とやらが現れると「自由!」「自分らしく働ける!」などと絶賛されるもの。そして、その働き方によって成功したと称する人がメディアに登場し、誰もがそうなれるとの錯覚を生じさせてしまう。

 ただその働き方、約30年前でいえば「フリーター」ですよ。「バイト転々」だと語感が悪いからそう名付け、当時は「カネをためて東南アジアでしばらく過ごしてきます」なんていうコメントが紹介されました。

 ところが結果は、氷河期世代がスキルを得られず、貧困40~50代になっている。

 1990年代前半、複数バイトを掛け持ちしている20代が「フリーターです!」と誇らかに言っていたのを覚えていますが、今や名乗るのをちゅうちょさせる肩書に。普通に「バイトです」の方がかっこいいくらいで……。

 そして今、新たな呼称は「フリーランス」ですよ!

 こないだギョーテンしたことがあります。ウェブ関連のフリーライターやデザイナーになるためのオンライン講座があるらしいのですが、某講座のサイトでは受講金額が出ていない。

 そこで質問サイトに金額を問い合わせる声が。経験者による回答には「たわいもない話の後、受講料の件が最後の最後に出たのですが、最短の4カ月コースで66万円と言われました」と書かれていました。

 その経験者の女性はシングルマザーのため「そんなお金はない」と言うと、消費者金融で借りればいいと返されたとか。「やりがい搾取」ですね。普段の仕事に加えて自宅でできる何かを見つけようとしたのに、「借金して利子払ってでも受講しろ」ですからね。

 66万円という金額は、ポッと出のフリーが稼ぐのに最低半年はかかるでしょう。

 フリーターの語がはやった時代から、人は「自由」「好きなように」という言葉に弱い。でも、フリーの仕事は「根性」「運」「コミュ力」でしか取れないと、24年このかたフリー生活の私は確信しています。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』など。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2025年2月13日号掲載

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