飲み屋なのにビール、酎ハイ、冷酒ナシ! 知れば飲みたくなる「熱燗しか出さない」店のアツい理由

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「お燗は無敵」のワケ

 研究を続ける中で、水原氏が熱燗について確信したことがある。カクテルやウイスキーなど洋酒の店を経営した経験も踏まえて導かれた、水原氏なりの“結論”だ。

「ビールはご機嫌! ウイスキーは最強! ワインは最高! そして純米酒のお燗は、無敵! なんです」

 いったいどういうことか?

「最強なウイスキーも最高なワインも、合わない料理だと最弱、最低になります。でも純米酒のお燗は、料理と喧嘩することがないんです。全部仲間になるから、戦うことがないんです。だから無敵なんです」

 米が原料、しかも熱燗は温かいごはんのようなものだから料理との相性はさらにいい。この“結論”にたどり着いたことで、水原氏は躊躇なく 熱燗を推すことを決め、熱燗こそが日本酒を再興させる切り札になると考えた。熱燗をきっかけに日本酒再興の流れを作りたいと考えている。

 見据えるのは、衰退している日本の米づくりを盛り上げ、本来の日本文化を取り戻すことだという。

「日本語の中には米作りと密接な関係がある言葉があります。例えば、雷のことを『稲妻』とも言いますね。『稲』の『妻』と書きます。そして『雷が多い年は豊作になる』という言 い伝えもあります。これは空気中の窒素が雷によって酸素と結合し、雨によって土壌に流れて、稲の栄養分になるからだと近年わかってきました。日本人はそのことを経験的に知り、『稲』を良くしてくれる『妻』のようなありがたい存在だと言葉にしていたんです。素晴らしいですよね」

 日本各地で、春には豊作を祈る祭りが、秋には米の収穫を祝う祭りが行われる。米は日本人の主食であるばかりでなく、文化とも切り離すことができない存在である。そして日本酒は古くから神社と深いつながりがある。古くから日本にあるさまざまなものが米を軸につながっている。

「日本酒は、本当に日本人の知恵が詰まった飲み物。4世紀ごろにはすでに麹菌を利用して米を発酵させる造り方を始め、江戸時代中期には、麹菌を使って糖化と発酵を同時に進行させる『並行複発酵」という、今も行われている複雑な造り方を確立していました。江戸時代中期、1800年代といえば、後半にイギリスで産業革命が起こった、そんな時代です。その頃に麹菌を利用した酒造りを進化させていたって、これは凄いことですよ。世界のどこにもない、日本酒だけの造り方です」

 日本酒の凄みをもっと知って欲しい。そして日本酒を守り、稲作文化を守りたい。熱燗はそのために大きな役割を果たすと、水原氏は考えている。いつもビールや酎ハイ、冷酒派の方も、今夜は試しに熱燗はいかがだろう。

華川富士也(かがわ・ふじや)
ライター、構成作家、フォトグラファー。記録屋。1970年生まれ。長く勤めた新聞社を退社し1年間子育てに専念。現在はフリーで活動。アイドル、洋楽、邦楽、建築、旅、町ネタ、昭和ネタなどを得意とする。過去にはシリーズ累計200万部以上売れた大ヒット書籍に立ち上げから関わりライターも務めた。

デイリー新潮編集部

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