飲み屋なのにビール、酎ハイ、冷酒ナシ! 知れば飲みたくなる「熱燗しか出さない」店のアツい理由

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平成に普及した「冷酒」

 日本酒といえば2024年12月5日、日本酒や焼酎、泡盛などの日本の「伝統的酒造り」が、ユネスコの無形文化遺産に登録されることが決まった。

 しかし、国内の日本酒の需要はずっと右肩下がり。国内出荷量のピークは1973年(昭和48年)で170万キロリットルあったのに対し、2023年(令和5年)は39万キロリットルと、4分の1以下に落ち込んでいる。また酒蔵の数も激減しており、清酒の製造免許場数は、1970年(昭和45年)の3,533場に対し、2022年(令和4年)は1,536場と半分以下に。最近では清酒の輸出が伸びているという明るい話題もあるが、国税庁の「酒レポート令和6年6月」によれば、「着実に増加しているものの、世界の酒類マーケット全体から見れば、いまだその金額は0.1%程度」にすぎないのが現実だ。

 水原氏は、こうした日本酒の現状に強い危機感を抱き、「日本酒がもっと飲まれるために熱燗を広めたい」と力を込めて語る。

 とはいえ、世間的には今や「日本酒といえば冷酒」という認識が当たり前になっており、水原氏のこの言葉に「なぜ熱燗?」「熱燗が日本酒のマーケット拡大につながるのか?」と疑問が浮かぶ人が多いかもしれない。

 そもそも冷酒とは冷蔵庫で5~10℃まで冷やした日本酒のこと。冷蔵庫の普及であらわれた、日本酒の長い歴史の中では新しい飲み方だ。 昔は日本酒といえばまず熱燗。選択肢は熱燗か冷や(=常温)しかなかった。日本酒を冷蔵庫で冷やす発想など、昭和の終わり頃までなかったのだ。

 日本酒の低迷に悩んだ業界は、ウイスキーやワインなどの洋酒が冷たい温度で飲まれていることを参考に冷酒を生み、広めた。海外の一流ソムリエが「ライスワイン」と冷酒を取り上げたことも広まった要因だろう。

 それはデータにも現れている。国税庁課税部酒税課が2005年(平成17年)に発表した「清酒製造業の健全な発展に向けた調査研究」に関する報告書の「インターネットによる消費者アンケート調査結果」によると、燗酒を「よく飲む」「たまに飲む」と答えた割合は9.3%で、冷酒では30.6%。冷酒派は3倍超にも上るのだ。

 平成の間にすっかり普及した結果、冷やして飲みやすい日本酒も数々生まれている。しかし流れに逆行するように、水原氏は“熱燗押し”に走るのはなぜか。その理由のひとつは、新たに広まった冷酒こそが“日本酒離れ”の一因になっていると考えているからだという。

「正しくない飲み方で冷酒を飲み、頭痛になったり、悪酔いした人が日本酒から離れていったんじゃないでしょうか。またそういう評判を聞いて悪い先入観を持ち、最初から拒んでいる人もたくさんいると思います」と語る。

 実際、冷酒が年々広まっていくのに対し、日本酒の出荷量はずっと落ち続けている。日本酒離れはそれ以前から進んでいたとはいえ、冷酒は救世主にはならなかった。“冷酒が日本酒離れの一員になっている説”も、あながち否定しきれない。

 そうした状況を踏まえた上で、水原氏は「まずは熱燗を体験してもらい、正しく飲めば日本酒が本当にいいお酒であることを、しっかり知って欲しいんです。そして再び熱燗を普及させ、日本酒の素晴らしさを知る人、日本酒を飲む人をもっと増やし、日本酒業界を盛り上げたいんです」と熱く語る。

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