飲み屋なのにビール、酎ハイ、冷酒ナシ! 知れば飲みたくなる「熱燗しか出さない」店のアツい理由

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 寒い冬はやっぱり熱燗が美味しい――なんて思うのは、昭和半ば生まれまで? 世間では冬でもビールや酎ハイのような冷たい酒が好まれ、日本酒を飲むのも冷酒が当たり前のようになっている。そんな世間の嗜好と真っ向からぶつかり、一年中、「出すのは日本酒の熱燗のみ!」という店が東京都内にある。夏の酷暑の夜でもお構いなし。メニューにビールや酎ハイがないばかりか、冷や酒も冷酒もないのだ。店主が熱燗にこだわり、熱燗しか出さないのはなぜなのか。聞けば納得し、熱燗が飲みたくなるそのアツイ理由とは? 読めばあなたの“日本酒観”が変わるかも!?【華川富士也/ライター】

住所非公開 いつも満席の“秘密の店”

「池波正太郎先生の作品を読むと、悪党が酒盛りする時は冷や酒。鬼平が事件を解決した後に飲む酒は熱燗と、池波先生は明確に書き分けています。無事に仕事を終えた後、喜びを噛み締めながら飲む美味い酒は熱燗なんです。熱燗こそ、古くからのあるべき日本酒の飲み方です」

 こう断言するのは、東京の某所で「熱燗しか出さない」居酒屋を経営する水原将氏。店の場所は非公開。行ったことがある人に誘われない限りたどり着けない“秘密”の店ながら、その思いに共鳴した客が客を呼び、いつも満席の人気店だ。

 水原氏は客に必ずこう言う。

「僕が出している熱燗を飲んで、二日酔いになることは絶対にありません。水は置いてありますが、酒を怖がってガブ飲みしないで下さい。その行為に意味は無いです。今日は普段とは違う飲み方を体感して下さい。熱燗こそが、日本酒の本来の飲み方。体にいい飲み方なんです」

 店では旬の料理と、料理一品一品に合わせた熱燗が振る舞われる。水原氏は熱燗を「炊き立ての米」と見立て、口の中で料理と日本酒を一緒に味わうことを勧める。日本人が得意とする“口内調味”を存分に楽しめるようメニューが組み立てられているのだ。

 出される日本酒は全て純米酒。王道の「生もと・大吟醸純米 極上白鷹」やピンク色の「流輝 純米吟醸ももいろ無ろ過生」、ラベルのインパクトも強い「純米吟醸 兵庫夢錦五拾五 強め 生」などなど、バラエティに富んだ日本酒が料理に合わせて次々と出てくる。温め方にもこだわりがあり、チロリは錫や銅など酒によって使い分ける。おちょこも出る酒ごとに変える。

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