「備蓄米」を放出で「5キロ5000円」の緊急事態は解消されるか…農水省への風当たりが強まる一方、本当の問題は日本人の“貧困化”との声も

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実質賃金の下落

 ところが、さらにコメの価格は下がり続ける。2000年代にデフレ経済が日本を襲ったことが原因だ。2002年に5キロの複数原料米は2000円台となり、06年には1996円と遂に2000円を割った。

 日本食糧新聞は2002年9月「米穀流通特集:コメ需給、価格底ばい続く・消費は年々大幅減」との記事を掲載。とうとう02年度産のコメは8月に行われた自主流通米の第1回入札会で60キロ1万5964円となり、河北新報の取材に応じたコメ農家が危惧していた「1万5000円の採算ライン」すれすれの価格となった。

 コメの価格も下落を続けたが、日本人の“稼ぐ額”も同じように下落した。先に「1989年から1991年まで5キロの複数原料米は4900円台だった」ことを触れたが、この頃の平均給与は463万6000円から465万3000円の間だった。

 ところがデフレ経済が進行すると、平均給与も右肩下がりとなった。2014年には419万2000円となり、90年代と比較すると40万円近い収入が失われたことになる。

「さらに近年は実質賃金の下落が深刻化しています。2022年度以降は消費者物価の上昇が賃金の上昇を上回る状況が続いているほか、労働者全体に占めるパートタイマーの割合が増加したことで実質賃金の下落を招きました。また22年からは円安基調となり、物価が軒並み上昇。もともと年金や健康保険といった社会保障費の負担に世帯が厳しさを感じていたところ、食料品の値上げが襲いかかったというわけです」(同・記者)

問われる政府の責任

 輸入が大半を占める小麦粉がウクライナ戦争の影響で急騰したのは仕方ないだろう。しかし自給率の高いコメの価格に、国民が安定を求めるのは無理のない話だ。

 多くの専門家が「実質的に継続している減反を廃止し、コメの生産量を増やし、余剰分は輸出。また農家が生活できるよう収入の補填を行うべき」と口を揃えているにもかかわらず、農水省の反応は鈍いと言わざるを得ない。日本人の貧困化が進んでいることに対する政府の対応も同じだろう。

 関連記事【スーパーのコメが「5キロで5000円」の異常事態に…「新米が出回ればコメ問題は解決」と繰り返してきた「農水省」に批判殺到】では、コメ価格の高騰を食い止められなかった農水省の問題点について詳報している。

註:図表1-8-2 平均給与(実質)の推移(1年を通じて勤務した給与所得者)

デイリー新潮編集部

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