話題の中国製「DeepSeek」で、政治的イシュー「習近平」「尖閣諸島」を検索するとどうなるのか
慌てたOpenAI
さらに、DeepSeekは問題を解くまでの過程を熟慮した上で、回答を生成する「Chain of Thought」という手法を無料で提供した。「Chain of Thought」は出力量が増えてむしろ計算コストが高くなるのだが、DeepSeekの省エネAIのおかげで無料公開できた。これに慌てたのが生成AI「ChatGPT」を提供するOpenAI社だ。 DeepSeekが公開されたほぼ2週間後に、OpenAI社初の無料で使える推論モデル「o3-mini」を発表し、無料版ユーザー向けに提供を開始した。
「注目すべき点はDeepSeekがオープンソースであること。これにより、日本企業や個人が自分のデバイス上で同じAIを動作させることが可能となりました。これまでAIモデルの処理には、クラウドを利用するのが一般的で、その結果としてNVIDIAのデータセンター向けGPUの需要が増加していた。ですが、DeepSeekの登場によりローカル環境でAIを動作させる選択肢が広がっています。NVIDEAのデータセンターの必要性が将来低下する可能性が生じたため、悲観した投資家が同社株の大量売却に動いたのです」(IT誌編集者)
そもそも、DeepSeekの大きなメリットは計算コストの削減にある。ニューロン数を減らしながら生成AIのChatGPTに匹敵する性能を発揮できるため、計算時間の短縮、消費電力の削減、そしてGPU依存の軽減が期待されるという。
ただ、日本人ユーザーにとって最大の懸念材料は、DeepSeekが中国企業であることだ。中国への情報流出や、中国政府の法制度や行政命令によって日本の企業が意図しない形でデータを提供しなければならなくなる可能性が指摘されている。また、DeepSeekに「習近平」や「尖閣諸島」など日中間の政治的なイシューについて検索させると、中国共産党に都合の良い回答をしてくるケースが予想される。
しかし、よくよく考えるとそれは当然の結果なのだという。
「そもそも中国のインターネット上の情報規制という点から考えると、DeepSeek側に政治的な意思がなくとも、中国で流通が許可されている情報源からしかデータを集められない。そのため、必然的に“共産党的”な回答をするケースが考えられます。一方、尖閣諸島のことを日本語で聞くと中国語のデータをベースとして中国の領土だと主張しますが、英語で聞くと英語の情報がベースになるので、ニュートラルな解答がされるようです」(前出のAI研究者)
モデルの中身を公開
日本人にとっては日本語入力の危険性に直面するというのが悩ましい。それでもDeepSeekは使い方次第の指摘も。
「ChatGPTを運営するOpenAIのモデルは非公開なので、ライバル企業は手探りで再現するしかなかった。しかし、DeepSeekはモデルの中身を公開しているので、他社が独自にカスタマイズし詳細に中身のモデルの研究ができたりします。そのため、産業面、学術面でとても大きなインパクトがあります。
一見するとDeepSeekにとって公開はメリットがないように見えますが、画像生成AIを独占していたStable Diffusion が、2022年にDeepSeekと同じくオープンソースとして公開したところ、同社の名が世界の隅々まで知れ渡りコンサル業の売上が飛び跳ねたそうです。実は、日本ではサイバーエージェントが、DeepSeekを日本語用に改造したものを公開しています」(同)
AI技術の発展は日進月歩で世界的な競争が激しくなっている。日本勢は食らいついていけるのか。
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