水谷瞬につづけ…「ソフトバンクに見限られた選手」が他球団で大活躍する理由
今宮、牧原大成が君臨し“周東より足が速い”ルーキーも入団
ところが、昨年のシーズン終了後、仲田を待っていたのは、まさかの戦力外通告だった。ソフトバンク側は育成選手として再契約を結ぶ意向だったが、ようやく支配下登録、1軍昇格まで漕ぎつけてから1年もたたず、もう1度振り出しの育成選手からやり直せというのは、仲田にとってあまりに酷だった。
テレビカメラの前で「本当に、今までで一番と言っていいくらい悔しい。もう1度絶対這い上がってやるという気持ちです」と思わず涙を流すと、SNS上は「仲田への戦力外は本当に頭おかしすぎると思う」、「2軍とはいえ打率4割は凄い。仲田じゃなくて他に契約切るべき選手おるやろ、たくさん」、「他の球団に行って、いつかホークスのフロントを見返してほしい」といった声であふれた。仲田自身も他球団からのオファーを待つ姿勢を示し、育成選手として西武での再出発を決めたのだった。
だがもちろん、ソフトバンク側にも事情があった。
「仲田が最も得意とするのは二遊間ですが、遊撃にはゴールデン・グラブ賞5回の今宮健太、二塁には牧原大成が君臨し、昨年のシーズン途中に加入したジーター・ダウンズ、川瀬晃、慶大から入団し2年目の廣瀬隆太らも控えています。さらに、ドラフト2位ルーキーの庄子雄大(神奈川大)は“周東(佑京)より足が速い”と評判です。かといって、外野には柳田悠岐、近藤健介、周東ら国内トップの選手がひしめき、“ギータ2世”の呼び声が高い22歳の笹川吉康も急成長している。客観的に見て、中堅にさしかかろうとしている仲田に1軍でチャンスを与えるのは難しい状況でした。水谷にしても、打撃が成長していることはわかっていましたが、守備がネックでした。水谷が日本ハムで大活躍したことに関しても、ソフトバンクのフロントは『決して失敗したとは思っていません。移籍即、大活躍したということは、われわれの育成に間違いがなかった証明ととらえています』と後悔していません」
(スポーツ紙ソフトバンク担当記者)
打撃コーチに技術指導を禁じ、選手起用の進言などに限定
それにしても、ソフトバンクではなぜ、優秀な人材が埋もれるほど育っているのか。単に育成選手の数が多く、競争率が高いだけでは、こうはいかないだろう。
実際のところ、ソフトバンクは本拠地みずほPayPayドーム福岡のみならず、ファームの練習施設のHAWKSベースボールパーク筑後にも、最新鋭の計測機器、トレーニング機器をそろえ、最先端の科学的なアプローチを行っている。この分野でソフトバンクに次ぐのが、昨年の日本シリーズでソフトバンクを破ったDeNAといわれている。
「最近はどの球団でも、スコアラー、トレーナー、トレーニングコーチといった昭和以来の呼び名が使われなくなり、アナリスト、アスレティックトレーナー、ストレングス&コンディショニング担当などと呼ばれる傾向が強い。プロ野球経験のない人間が、データを基に戦略、戦術に関わることも珍しくありません。他球団には、肩書を聞いただけでは、いったい何をやっている部署なのか、わからない人がたくさんいますよ。ソフトバンクの場合は今年、打撃コーチは選手起用の進言、狙い球などのアドバイス、打席へ向かう選手への声掛けなどに限定され、技術的な指導を行わないように通達されていると聞きました。技術指導は、新設されたR&D(リサーチ・アンド・ディヴェロップメント=研究開発)グループのスキルコーチが行うというのです。私は『ちょっと何を言ってるかわからない』と言いたくなりましたよ(笑)」(他球団編成担当者)
ソフトバンクからの移籍組では、昨年の現役ドラフトで日本ハム入りした24歳の吉田賢吾捕手も注目されている。現役ドラフトで捕手が指名されるのは史上初だった。
昨年の水谷のように、出場機会さえ与えられれば大活躍できる人材に、能力を発揮できないままプロ人生を終えてしまう可能性があったと考えると、あまりにもったいない。ソフトバンク戦力外→他球団で大活躍のパターンは、まだまだ増えていいのかもしれない。
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