「隣人がずっとカーテンのすきまから…」日本よりもさらに息苦しいドイツの「監視社会」の恐怖
2023年末ごろからSNSなどで発信される「私人逮捕」は、逮捕者が出るほど話題になり、「世直し系」と呼ばれるその行動が問題視されるようになった。
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コロナ禍という特殊な状況を経て、世の中は「相互監視」の風潮が強くなっている。評論家の犬養道子さん(1921~2017年)は生前、友人の作家・五木寛之さん(92)にドイツで起こったあるエピソードをボヤいていたという。
五木さんの最新刊『忘れ得ぬ人 忘れ得ぬ言葉』(新潮選書)から一部を抜粋・紹介する。
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ドイツ市民の厳密な習慣
評論家の故・犬養道子さんは、一時期ドイツに住んでいらした。
その頃の話を何度もうかがったが、こんなエピソードが記憶に残っている。
犬養さんはそのころ、犬だか猫だか忘れたが、ペットを飼っていらして、とても可愛(かわい)がっておられたという。
そのペットが死んだので、気持ちとして忘れ難く、ひそかに自宅の庭の樹の下に埋めた。すると翌日、警察がきて、犬を庭に埋めるのは違法である、という。
深夜、こっそり埋めたのに、どうして露見したのだろうとたずねると、すぐお隣りのアパートに住む老婦人から警察へ通告があったということがわかった。
その老婦人は、日がな一日ずっとカーテンのすきまから近隣の住人の動静をうかがっているのが生き甲斐(がい)だったらしい。時には双眼鏡であちこち監視していたという。
ドイツの市民は、法を守ることに厳格である。自動車を運転していても、ちょっと交通規則に違反する車があると、周囲の車が一斉にクラクションを鳴らして注意したりする。
車を洗わずにいると、近所の人から注意されることもあったそうだ。
そんなこんなで、いささか気が重くなってフランスに引っ越した。フランスもある意味では厳格なところのある国だが、お互いの私生活には干渉しない自由さがあって、気持ちがうんと楽になったのだそうだ。
コロナ禍で心に留めたい犬養さんの言葉
コロナ以後、なんとなく世の中が相互監視の空気が濃くなったようで、少し気が重いところがあり、ふと犬養さんの言葉を思い出してしまった。
自粛警察などという言葉もときどき耳にする。東京から地方にいくと、なんとなく行動を注目されているような気がして落着けない、という話もきいた。
頼むから盆暮れには帰省しないでくれ、と故郷の両親から言われたという地方出身の学生もいる。
電車やバスの中で、くしゃみが出そうになって我慢するのに大変でした、などという話も聞く。まわりの人たちの目が怖いのだ、と首をすくめていた。
周囲に迷惑をかけないように生きることは大事である。しかし、目を三角にして他人の行動を監視する社会は息ぐるしい。
自由と自粛と、そのかねあいの難しさをつくづく感じさせられる昨今の空気だ。
「世の中はちょっとルーズなほうが住みやすいのよね」
と、犬養さんは苦笑して言っていた。
アメリカの中産階級が住む郊外の住宅地では、前庭の芝生の手入れを怠っていると、近所の住民からクレームがくることがあるという。住宅地全体の雰囲気が乱れるということだろうか。
「人を見たら陽性と思え」
という世の中に、なんとなく息苦しい気がするのは私だけだろうか。
※本記事は、五木寛之『忘れ得ぬ人 忘れ得ぬ言葉』(新潮選書)を一部抜粋したものです。