物価高もなんのその…“自分チョコ”予算は9000円超 お祭り化する今年のバレンタイン

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売上40億円超は確実…百貨店のバレンタイン注力

 筆者は1987年、日本一の売上を誇った西武池袋のバレンタイン売り場で期間限定のアルバイトをしていた。当時は義理チョコ文化が全盛で、同じチョコを10個以上まとめ買いするOLも珍しくなかった。安いチョコでも百貨店の包装紙に包まれていれば見劣りしないというわけで、そうしたチョコを包装しまくるのがバイトの主な仕事だった。

 だが今や百貨店のバレンタイン催事は「年に一度のチョコレートの祭典」に完全に変貌している。

 筆者は平日夕方に大阪・梅田阪急の「バレンタインチョコレート博覧会」に行ってみたが、人気店舗には行列が出来ていた。約300ブランド3000種類の品揃えは、前出のジェイアール名古屋タカシマヤを上回る規模で、百貨店側の意気込みを感じる。こちらも2024年の売上約31億円超えは確実だろう。

 チョコレート業界で日本No.1の売上を誇るとされるジェイアール名古屋タカシマヤの「アムール・デュ・ショコラ」では、140のブランドから約2600種類のチョコレートが販売される。今年は、2024年に記録した41億円以上の売上をさらに上回ると予想されている。「アムールを120%楽しむための本」(定価1200円)まで作られたから、その人気のほどがうかがえる。

 新宿伊勢丹でも「サロン・デュ・ショコラ2025」が行われているが、スマホを活用した入場制限が行われており、筆者はまだ入場すら出来ていない。各百貨店とも、パティシエが登場するイベントの開催や販売日が決められた限定商品を用意したりと、リピーター来店を促す工夫がなされている。

 基本的に百貨店のバレンタイン催事は価格を気にしない客層が多いようだが、とはいえカカオ高騰と無縁ではない。単純にチョコの価格を上げるのでなく、ちょっと変わった提案で客単価を上げるような試みが見られた。たとえば松屋銀座では、イートインコーナーに「チョコ×お酒のマリアージュBAR」を設け、限定カクテルやハイボールなどが飲めるほか、チョコレートを香辛料としてたっぷり使用した「メメントモリ モレカレー」を提供している。“カカオの可能性”をテーマに、チョコレートだけに頼らないバレンタインの楽しさの幅を広げている。

「日本独自のチョコイベント」になるか

 インバウンドの顧客に関しては、売場を見渡す限り百貨店のインバウンド売上比率と比例しているとは言い難い状況だ。日本の百貨店で行われているバレンタイン催事は、世界最大のチョコレートのイベントのひとつである事は間違いない。渋谷のハロウィンがいまや外国人観光客の注目を集めてるようになったのと同様、来年以降、世界のチョコレート好きが日本に殺到する日が来るのではないかと感じる。

 テーマパークのように進化している百貨店のバレンタイン催事。しばらく訪れていない人、まだ行ったことが無い人にはオススメで、驚きと楽しさに圧倒され、“推しチョコ”を思わず買ってしまうかもしれない魅力がある。

渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
消費経済アナリスト、流通アナリスト、コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務などの活動の傍ら、全国で講演活動を行っている(依頼はやらまいかマーケティングまで)。フジテレビ「FNN Live News α」レギュラーコメンテーター、TOKYO FM「馬渕・渡辺の#ビジトピ」パーソナリティ。近著『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(フォレスト出版)。

デイリー新潮編集部

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