「気分はもう内戦」の韓国 裁判所を襲撃で司法崩壊…“世界最高の民度”の現在は

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「アフリカ」から「模範国」へ復帰

――なぜ、弾劾反対派の「熱量」がこれほどに高まったのですか?

鈴置:李在明氏を次の大統領にしたらまずい、との思いが普通の人にまで共有されてきたからでしょう。

トランプ就任でどうなる韓国…『米中どちらの味方か』の岐路に 米有力議員は韓国左派を“内通者”と非難」でも書いたように、「反米従中」の李在明政権が誕生すれば米国との関係が悪化する可能性が極めて高いのです。

 そもそも李在明代表は公職選挙法違反など数々の容疑で告訴されており、左派の中にも大統領には不適格と見る人がいます。それに、大統領、首相と相次ぐ弾劾に乗り出した野党を見て、戒厳令直前の弾劾政局による混乱を思い出した人も多いと思われます。

――それにしても「アフリカ並みの後進国」の主犯を続投させたい人が4割近くもいるとは……。

鈴置:初めは私もそれが不思議でした。でも、非難の対象を大統領から左派に移し始めた韓国人と話していて、はたと気付いたのです。

「アフリカ並み」「未熟な民主主義国」の汚名を雪ぎ、一挙に「世界の模範」に戻るには弾劾を無効にすればいいのです。戒厳令が憲法違反ではなく、正統性あるものだったとすれば後進国ではなくなるのです。

弾劾決定なら暴動?

――でも、戒厳を宣布した事実は残ります。

鈴置:2月6日の憲法裁の審判で、「違法な戒厳令」の重要な証拠とされた尹錫悦大統領の「議員を[国会から]つまみ出せ」との発言が、実は「人員をつまみ出せ」だったことが明らかになりました。保守系紙は内乱罪とするには無理があると書き始めました。

 尹錫悦大統領が国会に兵を送った事実に変わりはありませんが、弾劾審判には微妙な影響を与えそうです。先進国の称号を取り戻したい韓国人にとって嬉しい話です。憲法裁に弾劾を否認させる手掛かりができたと小躍りしているはずです。

――だから、極寒の韓国で弾劾反対集会が盛り上がるのですね。

鈴置:その通りです。弾劾が成立するか否かは左派が政権を奪取するか、保守が維持するかの問題だけではなくなりました。先進国の称号を守れるか否かの問題なのです。

 韓悳洙首相の懸念が痛いほどに分かります。もし、憲法裁判所が弾劾を認めたら、先進国の称号を失ったと怒る人は街中で暴れまわる可能性が高い。一方、弾劾が否認されたら権力を奪いそこなった左派が暴れるでしょう。

 韓国から目が離せません。世界も韓国も「内戦の時代」に入っているのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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