「気分はもう内戦」の韓国 裁判所を襲撃で司法崩壊…“世界最高の民度”の現在は
権限もないのに捜査
――そうでした。民度は「日本より韓国の方が高い」のでした。
鈴置:尹錫悦大統領への弾劾賛成派と反対派のデモが同じ場所で開かれても、警察が間に入れば衝突が起きない――。こんな「事実」も韓国人の自信の源となりました。「米国人や日本人だったら殴り合いになる」と肩をそびやかす韓国人もいました。
しかし、裁判所襲撃という暴力の行使が始まってしまった。「韓国人が世界最高!」などと誇っていられなくなったのです。ことに左派は。
――裁判所を襲撃するなんて、逆効果。むしろ左派は「しめた!」と考えるのでは?
鈴置:韓国ではそうはなりません。正義を実現するためには実力を使うべし、との空気が色濃いのです。保守は正義を主張したに過ぎない。むしろ、正義への強い思いへの表明と見なされます。
拘束令状の発布に関しては西部地裁にも弱みがあります。捜査に当たった公捜処(高位公職者犯罪捜査処)には内乱罪の捜査権限がないからです。権限を持つのは警察です。
そこで公捜処は職権乱用の疑いで捜査する過程で関連犯罪として内乱罪も調べた、との理屈を掲げました。が、韓国の大統領はその任にある限り、内乱罪か外患罪以外で刑事上の訴追を受けないと憲法84条に定められています。
弾劾反対派は公捜処の無法捜査を指摘してきました。それを無視して拘束令状を発布した裁判所も非難の対象です。そもそもソウル西部地裁は左派の牙城であり、保守陣営から目の敵にされてきました。「慣例ではソウル中央地裁に拘束令状を申請すべきなのに、令状が出やすい西部地裁に申請した」との不満も保守は溜めています。
裁くのは「最も左の裁判官」
――結局、裁判所襲撃事件は……。
鈴置:裁判官に大きな圧力となるでしょう。襲撃した暴徒のうち、63人が器物損壊や放火で起訴されましたが、彼らの狙いは令状を出した裁判官をやっつけることにもあったのです。深夜だったため裁判官は不在で、事無きを得たのですが。
この事件以降、保守派は裁判官を標的にし始めました。尹錫悦大統領を巡る裁判はツ―トラックです。内乱罪で訴えられている刑事裁判と、憲法裁判所に訴えられている弾劾訴追です。憲法裁判所が訴追を認めれば、大統領職を直ちに解任されることになります。保守派は当面の攻撃目標を憲法裁判所の裁判官に定めました。
与党「国民の力」は尹錫悦大統領の弾劾を審判する憲法裁判所の裁判官の3人が明らかな左派で、公正な審判を期待できないと非難しました。朝鮮日報の「『私が一番左』…政治偏向論争に陥った憲法裁判所」(1月31日、韓国語版)からその主張を要約します。
・裁判長を務める人物は左派の裁判官の集まり「我が法研究会」の会長を務めた時に「この会で私が一番左だ」とTwitter(現・X)でつぶやいた。また、[次期大統領選挙に出馬すると見られる]「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表とFacebookを通じて会話するほどに親しい。
・ほかの裁判官2人も実弟が尹錫悦退陣を要求する団体の幹部、あるいは夫が弾劾を主張する団体の関係者である。
この批判に対し、憲法裁判所は「裁判官は個人的関係を超えて判決を下す」などと反論しましたが、判決に対する疑惑を払拭したとは言えません。
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