「気分はもう内戦」の韓国 裁判所を襲撃で司法崩壊…“世界最高の民度”の現在は
韓国各紙が内戦の危機を訴える。左右対立が激化する中、ついに裁判所への襲撃が始まったからだ。司法は仲介役を果たせない。「尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の弾劾が決まれば、暴動が起きかねない」と韓国観察者の鈴置高史氏は言う。
【写真】さすがに「世界に誇る民主主義」とは言えなくなってきた…ソウル西部地裁の破壊の跡
一番危ないアノクラシー
鈴置:韓国で注目を集めている本があります。カリフォルニア大学サンディエゴ校のB・F・ウォルター(Barbara Walter)教授が書いた『How Civil Wars Start: And How to Stop Them』です。邦訳のタイトルは『アメリカは内戦に向かうのか』。
ウォルター教授は冷戦終焉後に世界で内戦が急増したことに注目。ほかの研究者と共に、第二次大戦以降に世界中で発生した内戦を研究し、共通するパターンを探したのです。
ウォルター教授が内戦研究を始めたのは1990年で、2022年1月にこの本を出版しました。もちろん、大統領選挙に不正があったとしてトランプ(Donald Trump)支持派が起こした米連邦議会への襲撃事件(2021年1月6日)も織り込んでいます。
――内戦の共通点とは?
鈴置:完全な独裁国家でもなく、成熟した民主国家でもない中途半端な国で内戦は起きるとウォルター教授は言います。そんな国が政情不安や内戦に陥る可能性は専制国家の2倍、成熟した民主主義国家の3倍あるそうです。原書の14ページです。
中途半端な民主政体を「アノクラシー(anocracy)」と呼びます。「アノクラシーの国で内戦が起きやすい要因の一つは法の支配の欠如にある」との研究結果をウォルター教授は引用しています(原書200ページ)。
韓国の法治もかなり怪しげなところがあります『韓国消滅』第2章「形だけの民主主義を誇る」参照)。
ちなみに、韓国語版が出版されたのは今年1月20日。尹錫悦大統領の拘束令状を発布したソウル西部地裁を保守派が襲撃した翌日でした。ほとんどの韓国紙がこの本を取り上げたのも当然でしょう。
韓国も内戦前夜
左派系紙ハンギョレは「陰謀論が呼ぶ『内戦』…韓国民主主義のための予言書[.txt]」(1月31日、韓国語版)でこの本を引用しつつ、「内乱の試みよりも不気味なのは内戦への前兆だ」と書きました。
「内乱の試み」とは尹錫悦大統領の戒厳宣布、「内戦の前兆」とはソウル西部地裁襲撃事件を指します。「不気味」とまで表現したのは、戒厳令は政争のひとコマに過ぎないが、襲撃事件は若者から高齢者まで保守派が結集する大衆行動の一端と見なしたからです。まさに国民が2つに分かれて戦う「内戦」の前兆と捉えたのです。
中央日報のチェ・フン主筆も「真の大韓民国危機の兆候」(2月3日、日本語版)で、国民の間の鋭い対立に危機感を表明しました。そして裁判所への襲撃までが起きる韓国の現状が、ウォルター教授の指摘する「内戦前夜」とピタリと重なると警告を発したのです。
――韓国人は「日本や米国よりも高い水準の民主主義」を誇っていました。
鈴置:2017年に朴槿恵(パク・クネ)大統領を弾劾した頃から「我が国の民主主義は世界の模範」と自賛していました(『米韓同盟消滅』第3章「中二病にかかった韓国人」参照)。
もっとも、昨年12月の戒厳令の直後には一転、「アフリカの後進国並み」としょげ返りました。天変地異以外の理由で戒厳令を出す先進国はまず、ないからです。
しかし韓国人はただちに気をとり直しました。戒厳令を無効化した際、国会議員と共に「市民」も国会に参集したことを強調し「民度の高さではやっぱり、米国や日本よりも上」と、再び胸をそらしたのです。
この辺りは――喜劇的な香りがする韓国人の心の動きに関しては「戒厳令が宣布されても『韓国すごい』『米国人や日本人より民度が高い』と誇る韓国人」をお読みください。
[1/4ページ]