義実家を毛嫌いし、僕を鼻血が出るまで殴った母…その“理由”を知って48歳男性は「うつ」になった

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祖父の葬儀で耳にした噂話

 その夜、母は「あんたの血筋はろくなもんじゃない」と父とケンカをしているのを栄介さんは覚えている。教育熱心だった母は、それきり栄介さんに興味を失ったように見えた。妹ばかりかわいがり、栄介さんを邪魔者扱いした。

「その謎が解けたのは高校生のときです。祖父が亡くなり、さすがにお通夜や葬式には両親も参列しました。父は長男なのに、喪主はなぜか祖父の弟だった。参列者は少なくて、雰囲気も変だったんです。近所の人たちがひそひそと『嫁に手をつけて……』と言うのが聞こえた。確認はしていませんが、母は祖父から性的な被害を受けていたんじゃないでしょうか。僕のスカートめくりに異常なまでの反応をしたのも、それがあったからではないかと」

 母の冷たい態度に疲れた彼は、東京の大学へと進学した。父に確認したくて話したこともあるが、父は「何のことかわからない」と言うばかり。父のそんな態度が、母をより硬化させたのではないかと栄介さんは思った。

「大学に行ったら何もかも忘れて楽しい学生生活を送ろうと思っていたのに、両親や祖父母のことを考えると、気持ちは沈むばかりでした。友だちができて一緒に遊んでいても、常にどこか暗いものが心にある。それを隠して、遊び人風にふるまうようになりました」

 友人とナンパしたり夜遊びしたり。日替わりで女性を求めたこともあった。だがなにをしても虚しいだけ。このままではいけないと思いながらも、何かに本気で取り組むことができなかった。

「就職してからも変わりませんでしたね。もしかしたら僕は祖父の子なのかもしれないとまで思うようになった。それをはっきりさせないと前に進めないような気がして、ある日、父に話があると連絡をしたら、東京に出張で行くからそのときにと言われて、初めて一緒に飲みに行きました」

父に尋ねると…

 外で会う父は、家にいるときより朗らかに見えた。仕事のことなどを一通り聞き終えると、父は生真面目な顔になって「なにを知りたいんだ」と言った。

「単刀直入に言うよ、オレはじいちゃんの子なのかなと言いました。父は青ざめた顔をしていましたが、『それはない』と意外ときっぱり言った。『結婚してすぐのころ、オヤジがおかあさんに手を出そうとしたことがあったのは事実だけど、たまたま居合わせたオレがぶん殴った』と。祖父は飛ばされて頭を数針縫うようなケガをしたそうです。ただ、狭い町だから、祖父が嫁に手を出したという噂はすぐに広まった。それならどうしておかあさんと逃げなかったんだと聞いたら、あんな親でもオレの親だからと。母は絶望的な気分になったでしょうね。離婚したいと母が言ったとき、ちょうど僕がお腹にいるとわかった」

 そのとき栄介さんは腑に落ちないことがあった。祖父に襲われた母にとって、その時期は男を見るのも嫌だったのではないか。それなのに父は母とセックスして妊娠させている。おかあさんは嫌がらなかったのかと父を問い詰めた。

「オレは夫だから。舅に手を出されるのとはわけが違うだろうと父は言いました。なにもわかってない。だから母はあんなに頑なな人になってしまったのだと思った」

母の“言い分”は

 栄介さんは母に会いに行ってみた。今もそうかもしれないけど、子どものころのオレをおかあさんは嫌ってたよねと問うと、母は「なんの話?」と避けた。じいちゃんに襲われたんだろ、気持ちが動揺しているのにおとうさんは慰めもせずにおかあさんとセックスした、夫婦なんだからと言って。それでできたのが僕なんだろと言うと、母は僕をじっと見て、「あんたはじいちゃんの子だよ」と言った。

「父と母の言い分が違う。僕はどっちの子なんだと混乱しました。当時は遺伝子検査なんて、一般人ができるようなものではなかったし、父と母を真っ向から対立させるのもなんだか気の毒な気がして、とりあえず、このことはもう蒸し返すのをやめようと決めました。僕は僕の人生を歩もうと」

 だが常に足元がグラグラしているような日々だった。どうしたらいいかわからず、それでもがんばらなければと思っていたが、ある日、突然、会社に行けなくなった。

「布団から出られない。ごはんも食べられない。息をするのがやっとという感じでした。会社の借り上げアパートにいたので、先輩が来てくれたんですが、受け答えもまっとうじゃなかったみたい」

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