前歯を失い、パンチドランカー、双極性障害も… 元・東大生格闘家「巽宇宙」の異色すぎる半生

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40歳でのキック再デビュー、パンチドランカーでIQの低下

 格闘技と東大受験。全く異なる二足の草鞋を履いたが、通じるものはあるのだろうか。どちらも本番には強いプレッシャーがかかりそうだが……。

「それは格闘技の試合の方が緊張しますよ。だって命がけですから。だって東大受験だって、学校が特別なだけで、普通のテストと同じでしょ。一方、格闘技は選ばれた人にならないと、後楽園ホールに立てない。リングからは、ほとんど観客の姿が見えなくて、リングにいる相手と僕たち二人しかいない。相手をやらないと、やられてしまう。そういう世界なんです」

 壮絶な格闘家時代だが、巽さんは引退後も、2012年に40歳でキックボクシングで再デビューをしている。

「その時は、40歳以上限定のイベントだったので、相手は弱かったのか、簡単に倒れてしまった。僕はやっぱりリングの上に立ちたかったし、スポットライトも浴びたかった。キックボクシングの試合で2勝し、プロモーターに『次の試合で勝ったらプロにしてください』って言ったのです。強気ですよね(笑)。でもその試合が無くなってしまった。怒りと悲しみが同時に湧き出してきて、メンタルがよくない兆しがして病院に行ったら、即入院になりました」

 実は巽さんは、双極性障害だけでなく高次脳機能障害も併発している。格闘家時代のダメージの影響が考えられるそうだ。

「WAIS-IIIというIQテストがあるのですが、今は80程度まで落ちています(日本人の平均値は100、東大生の平均は120ともいわれている)。完全にパンチドランカーです。主治医から偏差値でいうと40くらいと言われています。僕は試合だけではなくて、練習でも殴り合っていたのが良くなかった」

 将来のためにキャリアコンサルタントの国家試験の勉強を続けている巽さんにとって、大きな障壁だ。

「認知機能の障害が双極性障害の症状として明らかになっています。この前、試験を受けましたが、落ちてしまいました。障害で記憶が低下してまっているのであれば、受け続けるわけにはいかなくなります。僕の場合だと、50代って言う年齢のせいもあると思うし……病気のせいにするのも嫌ですけれどね。キャリアコンサルタントの資格を取ることによって、ハローワークで障がい者の雇用担当ができるんですよ。もしも資格が取れなかったら、障がい者のカウンセリングができるピアカウンセラーも検討しています。試験に落ちたのは悔しかった。仕事をしながら、空き時間をどれだけ有効活用できるかって考えると、まだまだ勉強時間が足りない反省があります。どちらにせよ僕の強みを生かせるような仕事がしたいと思っています」

 かつては学業と格闘家を両立していたが、今は仕事と資格試験の両立を目指している。

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 記事前編では、巽さんが双極性障害とどのように向き合い、闘ってきたのかについて伺った。

池守りぜね(いけもり・りぜね)
東京都生まれ。フリーライター。大学卒業後、インプレスに入社。ネットメディアで記者を務めた。その後、出版社勤務を経て独立。育児、グルメ、エンタメに関する記事のほか、インタビューも多数執筆。『一瞬と永遠』、『絶叫2』など、映像脚本も手掛ける。プライベートでは女児のママ。

デイリー新潮編集部

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