「双極性障害」でマッチングアプリに80万円を課金… 元・東大生格闘家が語る病との闘い
双極性障害と診断されてから
「うちの親は、まだ僕の病気を受け入れてくれていません」と語るように、周囲からは双極性障害であることを理解されていないと、巽さんは感じている。
「やっぱり双極性障害について、正しく知られていないのが一番の問題でしょうね。周囲にとっては、“東大生格闘家”のイメージで止まってしまっている。もしかしたら、親や妻にとっては彼らのなかでの僕の理想像があって、それは病気になる前の姿だと思うのですが」
治療を続けながらSNSなどで双極性障害の経験について発信しているのには、こんな思いもある。
「まず病名自体も知らない人もいるし、もしかしたらエキセントリックな症状と勘違いしている人もいるはずだし。自分としても、双極性障害だと理解できるようになってきたのは、2018年に二度目の入院をしてから。それまでうつと診断されて、双極性障害には効果がない薬を飲んでいた。誤診が判明するまでに時間がかかった。そう考えると、やっぱり病気の情報を正しく伝えないと。双極性障害のことを本に書きましたが、今回の取材もその足がかりにしたいと考えています」
睡眠とアルコール
双極性障害の特性には「自尊心の肥大」がある。巽さんは、通常の人が経験しないような「東大生」「格闘家」という経験が、その要因になっている可能性があるそうだ。
「アメリカ精神医学会も双極性の躁状態の症状として自尊心の肥大を挙げています。『自分はすごい』と思ってしまうのです。それと睡眠欲求の減少。2回目の入院後から毎日睡眠時間を記録するようにすると、症状はよくなってきました。僕の場合はうつだと過眠になるんです。睡眠のログを取ると、自分が躁なのかうつになりそうなのか予見できるんです。それがわかれば次になにをすればよいのか、判断がつく。睡眠時間をグラフ化して先生に見せ『これだったら心配しなくて良い』と言われることで、安心感を得ています」
ほかにはこんな支障も……。
「睡眠以外だと、あとはアルコールですよね。本を監修してくれた堀有伸(精神科医で巽氏とは東大少林寺拳法部の同期)からは、『基本断酒』と言われている。それくらい双極性障害の患者はアルコール依存症になる可能性が高いんです。とはいえ主治医によっていうことが変わっていて『月1回3杯まで』という人もいれば、『今は体調が良い感じで過ごせているから、週1回3杯まで』という人も。でも年末年始は飲み会が増えるのでその量だと無理じゃないですか。どうしたらよいか改めて医師に確認したら、その時期は特別に普通に飲んでOKと言ってもらえました」
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