歯が減ると要介護認定リスクが1.2倍に… 効果的な歯磨きの回数、タイミングは?

ドクター新潮 ライフ

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ネバネバ唾液とサラサラ唾液

 いろいろなものをおいしくいただくことを考えても、適切な口腔ケアは欠かせません。基本は、何といっても歯みがきです。1日最低2回は欠かせませんが、中でも最も大切なのは就寝前の歯みがきです。就寝時は、口の中を自然と掃除してくれる唾液の分泌量が減るため、口腔内の細菌の量が増えてしまいます。その量を少しでも抑えるために、寝る前に口の中の細菌を取り除いておく歯みがきは必須です。寝ている時にたまった細菌をきれいに洗い落とす意味では、起床後すぐ、朝一番の歯みがきも効果的です。

 さらにお勧めなのは、お風呂の中での歯みがきです。唾液には、ネバネバ唾液とサラサラ唾液があり、リラックスして副交感神経が優位になるとサラサラ唾液が分泌されます。このサラサラ唾液は文字通り、サラサラとしているため口腔内の細菌を洗い流す効果が大きい。お風呂に入っている時はリラックスしているので、サラサラ唾液が分泌されて洗浄効果が高まるはずです。

 また、歯の丈夫さを保つにはカルシウムの摂取が欠かせないことは誰もが知っているでしょうが、実はカルシウムとペアで働くマグネシウムの摂取も不可欠です。さらに、歯周組織の健康には亜鉛も必要で、亜鉛は、味を感じ取る舌の味蕾(みらい)細胞の新陳代謝にとっても重要です。マグネシウムは魚介やナッツ類や大豆、玄米など、亜鉛は牡蠣(かき)や小魚、抹茶などに豊富に含まれています。

 その上で、歯根膜などの主要な成分であるたんぱく質も十分に摂取しなければならないので、肉を食べずに野菜ばかりという、高齢者に見られがちな「粗食」も避けるべきです。「口腔と健康」について、取り組むべき課題が多くて大変と思われるかもしれませんが、無理なくできることをやってください。「達成感」は認知症予防になります。

永久歯のメッセージ

 最後に、乳歯と永久歯についてお話ししたいと思います。なぜ乳歯が抜けて永久歯に生え変わるのか、そしてそれがどうして一度だけなのか、実はその理由はよく分かっていません。なので、私はこう捉えることにしています。そこには、永久歯は二度と生え変わらないから大事にしなければならないというメッセージが込められているのだ、と。

 そう考えると、歯への愛おしさが増して口の健康維持に努めやすくなり、それがひいては脳の健康にもつながるはずです。

後藤多津子(ごとうたづこ)
東京歯科大学主任教授。1962年生まれ。九州大学歯学部卒業、同大大学院修了。大学歯学部ランキング3年連続世界1位の実績を持つ香港大学歯学部で准教授、同大学プリンス・フィリップ歯学病院画像診断科科長を経て東京歯科大学主任教授に。香港大学の名誉教授でもある。2024年11月、『唾液力でボケ知らず!――脳と認知症改善メソッド』を上梓した。

週刊新潮 2025年2月6日号掲載

特別読物「歯が減ると要介護認定リスクが1.2倍にも 『認知症』を予防する『歯』の超健康術」より

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