歯が減ると要介護認定リスクが1.2倍に… 効果的な歯磨きの回数、タイミングは?

ドクター新潮 ライフ

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 噛み、すりつぶして、食べる。そして話す。「口」が果たしている役割は大きく、口腔環境の健康を保つことこそが長寿の基本とされてきたが、実は認知症予防においても口の健康が非常に大事で、とりわけ65歳以上の人は要注意だという。ボケたくなければ歯が命。【後藤多津子/東京歯科大学主任教授】

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 健康に気を配っているみなさんであれば、「脳腸相関」という言葉を耳にしたことがあると思います。

 脳と腸はそれぞれ別の臓器でありながら、自律神経やホルモン、免疫などの働きを通じて、お互いに密接に影響を及ぼし合っている。従って、いつまでもボケることなく脳の健康を維持して長寿を全うするには、腸内環境を良くする必要がある。ということで、いろいろな食材の摂取が推奨されたりしています。

 人生100年時代を生き抜くには、この脳腸相関がとても大事なキーワードであることは間違いありません。しかし私は、さらなる脳の健康増進のために、そこにもうひとつポイントを加えたいと思います。脳腸相関を下支えするのは口腔環境、すなわち「口の健康」である、と。

〈こう解説するのは、東京歯科大学主任教授(歯科放射線学講座)の後藤多津子氏だ。

 よく噛むことこそが健康の第一歩。昔からよく言われてきたが、それが単なる古人の教えではなく、科学的にも正しいことが、近年の研究で次々に明らかになっているという。

 しかも現在、がんを抜いてなりたくない病気・症状の第1位となっている認知症の予防にも、口腔環境の改善が大いに役立つというのだから、話を聞かない手はあるまい。

 後藤教授が、まずは「歯と認知症」について説明する。〉

口腔内の細菌は腸内環境にも影響

 噛むという行為が、健康を維持するにあたって極めて重要であることは、これまでもマウス実験で証明されていました。マウスの臼歯(奥歯)を抜くと、噛む感覚を脳幹に伝える神経がダメージを受けます。さらに脳の一部の神経が死んでしまうことで、認知症の原因物質が拡散・蓄積し、認知症発症や進行のリスクにつながってしまうことが分かっていたのです。

 そして2023年、東京歯科大学と量子医科学研究所などの共同研究により、人間においても65歳以上の人が歯を失うことがアルツハイマー病を引き起こす要因になるとの結果が明らかにされました。65歳以上の人が歯を失うと、脳内で神経変性が起こり、認知症リスクが高まることが示唆されたのです。脳の健康にとっていかに歯が大切であるかが、科学的に解明されたわけです。それも当然というべきか、口腔環境は脳と密接に関係している上に、腸とも関連性が深いのです。

 口の中にはさまざまな細菌が存在していますが、それを飲み込んだとしても胃酸で死滅するので腸には影響を与えない。これまではそう考えられてきました。ところが最近の研究では、口腔内の細菌が全て胃酸で死滅するわけではなく、一部は腸にも届き、腸内環境に影響を与えることが分かっています。また、味を感じるセンサーである味覚受容体は、口腔内だけでなく腸にも存在することが判明しています。このように、「口と腸」は連係、連動しているのです。

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