フジ「10時間会見」で注目を集めた「フリー記者」の実態…“権力”以上に距離を置くのが難しいものとは

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孤独との戦い

 フリー記者が「不安定」だと感じるのは、収入面だけではない。

 例えば組織ジャーナリストの場合、記者への「誹謗中傷」や「脅迫」に対して、会社のなかに保護・相談できる部署があるところがほとんどだが、フリーの場合はひとりで対峙することになるのだ。

 しかし、筆者がフリーのライターとして最も辛いと感じるのは、そんな世間からの誹謗中傷でもなく、安い原稿料でもなく、毎度やってくる締め切りでもない。

「孤独」だ。

 フリーの書き手は、真面目にやればやるほど孤独になる。

 報道に従事する人間には、「権力からの独立」という高い倫理観が必要になる。いかなる権力からの圧力にも屈しないという姿勢は、組織ジャーナリストたちにとっても容易いことではないが、1人で活動するフリーにとっては、組織ジャーナリスト以上に勇気が要る。

 が、ジャーナリストが独立していなければならないのは、「権力」だけではない。

「大衆からの独立」も必要なのだ。大衆とはつまり、「世間」だ。

 権力に比べると、一見簡単そうに思えるが、実はこれは権力からの独立以上に難しく、精神的にも負担が大きい。

 記事を書いていると、徐々に応援してくれる読者が増える。執筆記事の公開直後だと、「よくぞ言ってくれた」「応援しています」といった内容のメールやDMが、多い時で50~100件ほどくる。

 苦しい取材・執筆作業の後に集まるこうした声には非常に励まされ、こちらも彼らを心の底から応援しようと思うのだが、書き手としてはその関係に一線を引く必要があるのだ。

「読者が喜ぶ記事を書くこと」が書き手の仕事ではないからだ。

 批判してくる人であれ、応援してくれる人であれ、そして無関心な人であれ、指摘すべきことは指摘しなければならないのが書き手の立場だ。

 実際、それまで応援してくれていた人に耳の痛い話をしたことで、大ファンが一気に大アンチになったことも数知れない。

 無論、「真の読者」は分かってはくれるものの、その読者からの応援を真正面から受け止められないことは、やはり辛い。

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