「ヘドロを大量に飲んで嘔吐」「至る所からうめき声がした」…82年の羽田沖墜落事故、生存者が語った凄惨な情景

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海水と破損物の直撃で目の前が真っ暗に

「機内に大きな金属音が響き、女性のキャーという悲鳴がしました。頭上から酸素マスクが落ち、前の席の2人が前方に飛ばされていくのが目に入りました」

 こう言うのは、広告会社社員の男性(35)。

「私はとっさに前傾姿勢を取りましたが、胸に痛みを覚え、腰はハンマーで強く叩かれたような感じがしました。頭を上げると、前方に円形にくりぬかれた青い空が見えました」

 機体が真っ二つに折れてしまったのである。前から6列目の席にいた朱雀さんにも強い力が加わった。

「ドドーンという凄まじい衝撃が体を襲いました。海水が機内に流れ込み、乗客の荷物やら、飛行機の破片やら、とにかくあらゆる物体が一斉に飛んできた。海水と破損物の直撃を受け、目の前が真っ暗になり、私は意識を失いました」

 気がつくと、水中に投げ出されていた。

痛い、寒い、気持ちが悪い

「苦しい、という思いで目覚めました。私は右翼後方の海中にいました。左前方に座っていた私は、機体の外に投げ出され、飛行機が私の上を通過し、その結果、右翼の後方にきてしまったようでした。ヘドロを大量に飲んだらしく、呼吸がおぼつかなく、嘔吐を繰り返しました。2月の海水は冷たく体は凍りついたようです。顔は海面に出たものの、席ごと投げ出された私は、シートベルトで固定され、抜け出すことができなくなっていた。全身の痛みが時を追うごとに酷くなった。痛い、寒い、気持ちが悪い。試験に落ちるより先に、飛行機が墜ちて死ぬのかと思いました」(朱雀さん)

 朱雀さんは、人の悲鳴を耳にした。

「『助けてくれ』という声でした。首を動かすと、私と同じように外に投げ出された人が2人いた。1人は全身血だるまで、飛行機の破片に必死でしがみついている。もう1人は、顔を海面につけたまま動かなかった」

 前から26列目の席にいたのは、ある県の教育委員会に勤めていた男性職員(31)である。

「至る所からうめき声が聞こえた。左隣の男性が足元に置いた荷物に足を挟まれ、苦痛で顔を歪めていました。後で聞くと大腿骨骨折の大ケガを負っていた。前方ではスチュワーデスがヘドロや機体の破片で汚れた制服で『飛行機はすぐには沈みません。落ち着いてください』と叫んでいました」

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