「ヘドロを大量に飲んで嘔吐」「至る所からうめき声がした」…82年の羽田沖墜落事故、生存者が語った凄惨な情景
普段は見られないはずの風景が
猪狩課長が永田町の焼け跡にいた頃、東京からおよそ890キロメートル離れた福岡空港を1機の航空機が離陸した。午前7時25分発の日本航空350便羽田行。乗員乗客174名を乗せたDC-8型機は、羽田に向け順調にフライトを続けた。
「快晴で窓から富士山もよく見えたし、揺れもなかった。快適な飛行でした」
というのは、ある市役所の建築局に勤務していた男性職員(37)。その日は新年度の予算のヒヤリングのため東京・霞が関の建設省(注・再編後は国土交通省)に行く用事があった。
午前8時39分。350便は房総半島の木更津上空を通過。着陸体勢 に入る。機体は徐々に高度を下げていく。
「あれ、おかしいな、と思ったのは、窓から浦安の風景が一望できた時です」
とは、製造業の営業マン(44)である。彼は主翼上に位置する席に座っていた。
「普段なら東京湾で左旋回して、降りながら工事中の東京ディズニーランドが見え、川崎の工場群が目に入るのですが、あの時は、機体が傾いていて主翼にさえぎられるはずなのに窓から風景が全部見えた。変だなと思いましたね」
柱をなぎ倒し、そのまま海面に
予備校生で、大学受験のために搭乗していた朱雀公道さんも機体の異様な動きを感じていた。
「前方に羽田空港が見えた頃です。突然、離陸時のようなゴォーッという音がした。ほぼ同時に機首が急激に下がり、前のめりのような格好になった。『飛行機は後輪から着地するのに、どうして前のめりになるんだ』という思いが頭をよぎる中、機体はジェットコースターのような勢いで墜ちていく。窓を見ると海面が目前に迫っていました」
その時、コクピット内では信じがたい光景が展開していた。着陸直前、機長は逆噴射レバーを引き、操縦桿を押し倒したのだ。隣の副操縦士が、
「機長! 何をするんですか!」
と叫んだが、機体はC滑走路の510メートル手前の進入灯に激突。鉄柱をなぎ倒し、そのまま海面に突っ込んだ。
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