道路陥没事故が起きた八潮市 「潮」の一字が伝える土地の記憶と先人の警告

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東京湾の上げ潮に由来していた

 1910年(明治43年)に洪水被害が出たのちには、八潮市南東部の中川が大きく屈曲した部分の流路を変え、直線化する工事が行われている。

 このとき流路が変えられた箇所に架けられた橋は「潮止橋」と呼ばれ、そこから陥没事故が起きた地点までつながる通りは「潮止通り」という。その由来だが、『角川日本地名大辞典 11 埼玉県』の「潮止橋」の項には、「潮止という地名の由来は、東京湾で上げ潮の際中川の水が逆流して上流までさかのぼり、この付近まで流れてきたことからつけられた」とある。

 実際、潮は八潮市まで上ってきていたのである。そして、潮止橋の周辺は、明治時代の町村制施行時には「潮止村」といった。それが昭和の大合併に際して、北部の「八條村」と西部の「八幡村」の頭文字を合成し、「八潮市」が誕生したのだという。いずれにせよ、八潮市の「潮」の地は東京湾の上げ潮に由来するとともに、その周囲では、頻繁に洪水が発生していたのである。

 もちろん、「八潮」という地名の由来を知っていたからといって、事故を未然に防げるわけではない。だが、その土地の履歴を知って、災害などへの心づもりをするうえでは参考になるはずである。

 地名に使われる文字で水に由来するものは、潮のほかにもたとえば川、池、沢、湧、浜、洲、津、浦、崎、あるいは浅、深など枚挙にいとまがない。また、蛇や龍などの文字は、川が激しく蛇行して流れる様子を象徴している場合が多い。すなわち、過去にその近くで大規模な土砂災害が発生した可能性がある。

 また、もともと使われていた漢字が、時代とともに負のイメージがないポジティブなものに置き換えられながらも、読み方から成り立ちがわかる場合もある。一例だが、「牛」は「つらい」を意味する古代語の「憂し」に由来し、過去の地滑りや洪水などを表している可能性がある。「猿」にはズレるという意味があるので、地すべりなどを想起させ、「梅」はもともと「埋める」を意味し、土砂で埋まった土地の可能性があるという。

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