道路陥没事故が起きた八潮市 「潮」の一字が伝える土地の記憶と先人の警告

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内陸県の埼玉なのになぜ「潮」がつくのか

 1月28日に埼玉県八潮市で道路が陥没し、74歳の男性が運転するトラックが転落した事故は、予想を超えて被害が広がった。穴は拡大し続け、深さも増している。それには複数の原因が指摘されており、そのひとつは約10メートルの地中に埋設されていた下水道管の腐食である。

 汚物をふくむ有機物から発生した硫化水素が空気に触れ、酸化して硫酸になったことからはじまったという。そのせいで鉄筋とコンクリートでできた下水道管が溶け、小さな穴が開いたところに、今度は地下水や土砂が少しずつ侵入。こうして地表とのあいだに空洞ができ、陥没につながったというものだ。

 また、もともと地盤が軟弱だったため、空洞ができやすかったという指摘もある。八潮地域は砂地盤で地下水位も高いので、下水道がわずかでも破損すると、そこから砂が流れ込みやすいという。地盤が軟弱だからこそ、いったん問題が生じると地盤沈下につながりやすかった、というわけだ。

 そこで引っ掛かるのが「八潮」という地名である。一般には地名につく「潮」という文字は、地盤が軟弱な可能性を示唆しているといわれる。だが、そうはいっても、八潮市は内陸県である埼玉県の自治体である。県内では南東部に位置しており、ほかの自治体よりは相対的に海に近いものの、海岸線からは15キロ以上離れている。それなのになぜ「潮」なのだろうか。

 八潮市は、市の東側を流れる中川と西側を流れる綾瀬川にはさまれた地域だが、かつてこれらの川はたびたび氾濫し、水害が発生していたようだ。そもそも江戸時代に利根川が東遷、荒川が西遷させられる以前には、中川はこれらの大河の下流で、しかも西側の綾瀬川は荒川の分流だったので、たしかに水害が発生しやすい条件がそろっていた。

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