“整備のプロ”が本格導入を決めたEV車両とは!? 「伊丹空港」JAL整備格納庫レポート
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大阪・伊丹空港の広い駐車場を抜け、10分ほど歩くと、巨大な屋根付きガレージのような建物が並ぶ場所にたどり着く。航空各社の整備格納庫が軒を連ねているエリアだ。その中でもひときわ大きな格納庫が、鶴を模した赤いロゴマークでお馴染み、JALの有する「日本航空大阪整備格納庫」である。
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圧巻の“超巨大ガレージ”に鎮座する航空機
取材に訪れた記者たちを迎え入れてくれた、JALエンジニアリングの木村さんは、
「羽田などの大型格納庫に比べれば、かなりこじんまりとしていますけどね」
と話すが、それでも鉄製の幅約10mの扉を7つ繋げてようやく閉じることのできる“超巨大ガレージ”は、初めて見る者を圧倒する。
格納庫の中には、約70名乗りの飛行機が2機並んでいる。熱心な飛行機ファンでない者でも、思わず胸躍る光景だ。飛行機の傍では、お揃いのグレーの作業着に白いヘルメットといういで立ちの整備スタッフたちが、機体のメンテナンスにあたっていた。
普段、旅行や出張でお世話になっている飛行機は、こうしてフライトのある度に入念な整備をしてくれる“職人”さんたちがいることで、初めて安全に運航できるのである。
格納庫から大扉の外に広がる駐機場に目を移すと、別の小型飛行機が停まっていた。操縦席の付近に見慣れない車両が横付けされている。
「飛行機に電源を供給するための電源車ですね」(木村さん)
格納庫では飛行機の周りで、トラックやミニバン、高所作業車や小型の牽引車など、非常に多くの車両が働いている。
その中でも目を引くのが、複数台あるピカピカの軽自動車。ドア部分に描かれた赤い鶴のJALマークが、白い車体によく“映え”ている。
マイクロモビリティの導入は難しかった
「日産のEV車、サクラです。2022年2月に1台を試験導入したあと、2023年9月に4台購入し、現在は計5台が稼働中です」(木村さん)
航空機整備の仕事は、日常的にこの大阪整備格納庫と、乗客の乗り降りする伊丹空港の駐機場とで行われている。両方を行き来する移動手段が必須なのだ。
「整備士の移動用の車両は全部で17台。伊丹空港の敷地は広大ですが、航空各社に割り当てられる面積はそれほど広くありません。安全上のルールもあり、車両を停められるスペースもしっかり決められています」(同)
限られたスペースになるべく多くの車両を停められないかと、2人乗りの超小型EV、いわゆるマイクロモビリティを試験導入した時期もあったが、整備士の評判は芳しくなかったという。
「人が移動する分には問題ないのですが、荷室が狭いため、整備に使う工具はほとんど乗せることができませんでした。それから、冷暖房がついていなかったのも現場使用には不向きでしたね…」(同)
屋外作業が中心になる整備現場は、夏はクラクラするほど暑く、冬はとてつもなく寒い。束の間の移動だとしても、整備士の健康維持を考えれば車両の冷暖房機能は欲しいところだ。
マイクロモビリティの現場使用は難しいという判断となり、次に導入を検討したのが同じくガソリンを使用しないEV車だった。そこには“現代ならでは”の事情もあったのだそう――。
ゼロエミッションの実現にも有効なEV車導入
「JALが2050年までの実現を目指している“ネット・ゼロエミッション”です」(木村さん)
ネット・ゼロエミッションとは、温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスを取ることで、排出量を“実質ゼロ”にする試みだ。大きな機体を飛ばすには多くの燃料が必要なため、航空業界の脱炭素化は世界的な課題となっている。
「われわれ航空会社にとってのゼロエミッションとは、一義的には航空機に使う燃料をバイオ燃料など“持続可能な航空燃料”、いわゆるSAFに置き換えていくことを指します。ただ、空港施設で使用する車両のCO2削減も重要で、ガソリン車からEV車への切り替えはその有効な手段なのです」(同)
EV車の切り替えにあたって、木村さんたちが重要視したのは牽引力などの面で「ガソリン車と遜色ない性能」を発揮できるかどうかだった。
その点、日産サクラの実力はどうなのだろうか。ここからは実際に現場で日常的にサクラに乗車する、整備士の河﨑さんにも話を聞いた。河﨑さんは二十歳の頃から整備士として働く。まだ37歳とはいえ整備歴17年のベテランだ。
「実際に現場で働く我々は、どうしても新しく導入される機器や車両への評価はシビアになりがちです(笑)。日常的に使うものですから、やっぱり使い勝手は妥協できないところ。その点、サクラについては私を含め、現場の整備士からの不満は特に聞こえてきません。整備に必要な工具も、ほぼ全て荷室に積むことができますし、冷暖房も完備されているので、特に夏場は助かりますね」(河﨑さん)
サクラはEV車の中でも「軽」に位置づけられる車種だが、パワーなどに不満はないのだろうか――?
知らせがないのは良い知らせ
「飛行場を走行する際の最高速度は30km、荷物を牽引する場合は15kmと決まっているので、そもそもグッとアクセルを踏み込む場面はないのですが、加速はむしろガソリン車よりもスムーズですし、牽引も問題ないですね。タイヤに入れる窒素が入った『N2カート』は、だいたい500kgぐらいの重さがあるのですが、パワー不足を感じることはありません」(河﨑さん)
EV車なので、もちろん給油は必要ないが、充電の持ちはどうだろうか。
「フル充電で3日は持ちますね。その日、最後に車両に乗った人がメーターを確認して、3つあるポートで順番に充電するようにしています。翌朝には充電が完了しているのでストレスはないですね」(同)
横で河﨑さんの話を聞いていた木村さんも満足そうな表情だ。
「これは“現場あるある”なのですが、新規導入の車両などは、何か問題がある時には不満の声が聞こえてくるのですが、一方で何も問題がない時に特に喜びの声が聞こえてくることはない。サクラの場合、現場の反応が静かだったので、評判が悪くないことは自ずと分かっていたのですが、こうして改めて現場の評価を聞くと、導入して良かったと思いますね」(木村さん)
職員用駐車場に停まるようになった“もう1台のサクラ”
ガソリン車と“遜色なく”動けばいいと考えていたが、思わぬ+αの効果もあったそうだ。
「実際に使用してみて気付いたことですが、EV車はエンジンが無く、エンジンオイルやオイルフィルターなどの交換も不要なので、ガソリン車に比べて維持費も安い。これは嬉しい誤算でしたね。導入からまだ2年ですので、耐久性の評価はまだこれからですが、今のところ故障などのトラブルもありません」(木村さん)
ちなみに、日産の販売担当者の喜びの声が聞こえてきそうな、こんなエピソードも。
「ある時期から、職員用の駐車場にサクラが停まるようになったんです。現場で使っているサクラは業務用なので白色なのですが、そのサクラは色付きです。おそらく、現場でサクラを使用して気に入った整備士が、自家用車として購入したんだと思うんですよね」(木村さん)
JALは今後もEV車の導入を拡大していく予定で、日産サクラは有力な候補だそうである。