「会社の未来を託したはずが」M&A後に待ち受けていた地獄…元経営者の告発に買収側の「言い分」とは
「M&Aの買い手として、会社の資産状況を判断材料にするのは当然」
買収した会社の売上金や会社内部に残っていた運転資金を、元経営者に断りなくF社の関連口座に移した理由は――。
「双方の合意で会社の売買が成立し、私共の所有となった会社の資金移動にあたり、事前に前代表者との協議が必要なのでしょうか? なお売買契約にあたっては、事前に前述した私共の目論見をすべて説明しており、一つの財布として回していくことを了承していただいています。すべてその上での買収です」(F社代表取締役)
会社を売却した元経営者が「はじめから会社内の資金が狙いでM&Aしたのでは」と疑念を持っていることについてはどうか。
「その疑念は半分は正しく、半分は間違っています。前述の運用をするわけですから、対象会社の資金や売り上げも買収の判断材料としています。M&Aにおける買い手として、当たり前のことかと存じます。一方、ご指摘の『資金』は判断材料の一つに過ぎないことも事実です。実際に買収した会社が複数ある中で、そもそも現預金などないに等しかった事例も複数あります」(同)
あくまで、目論見違いによって生じた事態であり、“会社の資金目当て”という指摘は「事実でない」というのだ。そしてこう結ぶのであった。
「現在、私共は再建の過程にあります。年単位の時間は必要ですが、引き受けた会社を含め、再建を果たす所存です」(同)
F社の「言い分」に、元経営者であるA氏はどういった感想を持つのだろうか――。
「F社の主張には全く説得力がない」
「F社に買収された他の会社の状況について、詳しいことは私には分かりません。ただ、少なくとも私が経営していた会社のことを“債務超過のゾンビ企業”と言われることは全く納得がいきません」(A氏)
F社への売却時、A社に債務があったことは事実としつつ、会社に「稼ぐ力」は十分に残っていたというのだ。
「全盛期の28億円には及びませんが、売却時でも年商は約10億円をキープしていました。月1億円弱の売り上げがあって、利益も3~4000万円ほど出ていたのです。しっかり事業を継続できていれば、年間4億円ほどの利益を上げられる見通しは立っており、F社には仕入れに必要な運転資金を回す役割も期待できるとM&Aに応じたのです」(同)
複数の会社を買収し、財布を一つにすることで運転資金を回していく、という方針は売却時に受けた説明とも一致するという。ただ、実際には事業の継承は果たされなかった。
「従業員は解雇され、オフィスはもぬけの殻になっています。それで“再建の過程”だと言われても何の説得力もありません。思い返せば、資金注入が停止された時も同じような言葉を聞きました。“来週には入金する”が“来月になれば必ず”に変わり、“経理担当が風邪を引いているから”とか“入金のシステムがエラーを起こしていて”とか、先延ばしの言い訳ばかりでした」(同)
F社の言う“再建”が果たされる日は本当にやってくるのだろうか。
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この記事の前編では、A氏の会社がF社に売却されるまでの過程について、より詳しく取り上げている。「後継者不足」を理由にM&Aを検討する中小企業が増えるなか、「騙された」と訴える経営者が続出している理由とは――。
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