M&Aで「騙された」 2.6億円を失い借金4億円…夢の隠退生活を奪われた63歳社長の悔恨

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「一時は最悪のことまで考えました」

「この件でテレビや新聞の取材を何度か受けていまして、それをきっかけに、同様の被害に遭った経営者と何人も知り合いました。話してみると、ほとんどが70歳を超えた高齢の経営者で、みんな後継者不足を理由にM&Aに頼り、騙されていた。きっと、“頂き女子”と同じで会社を食い物にするマニュアルがあるんです。そう思うぐらい手口が酷似していました」(同)

 こうした“被害”が広がる背景には、M&A需要の急速な伸びがある。

「2024年は540件の“後継者難倒産”が判明していますが、少子高齢化を背景にそうした倒産は今後も同様の水準で推移することが予想されます」

 そう解説するのは、帝国データバンク情報統括部の藤本直弘氏である。

「中には、事業自体は順調だったがやむなく廃業したというケースもあり、それを避けたい会社が事業継承を目的にM&Aに託す、というニーズが増えているのです」

 ただ、M&Aは金融業や不動産業とは異なり、取り扱いに必要な資格が存在しない。業界団体であるM&A仲介協会は「資格制度の創設を目指す」としているが、実現にはまだ時間がかかりそうだ。

「こんなことがまかり通ってしまっては、日本社会はボロボロになります」

 A氏はそう語気を強める。

「事業というのは単なるお金儲けだけではありません。お客さんが喜ぶ価値を提供し、その対価を得ることで、社会を豊かにしていく。そういう自負のもと自分なりに誇りを持って取り組んできました。でもF社がやっているのは、ただ奪うだけ。なにも生み出していないんです。」

“被害”に遭ってからは眠れない日々が続いたというA氏。

「F社のことを考えない日はありません。もう疲れてしまって、一時は最悪のことまで考えましたが、今は同じような被害がこれ以上うまれないよう、戦いたいと思っています。F社のことも、無責任な仲介をしたT社のことも、私は絶対に許しません」

 週に数回、自分の興した会社の様子を見にいきながら、心穏やかな日々を送る、というA氏の老後の楽しみは奪われてしまったのだ。

 F社に見解を問うべく代表者に連絡すると、匿名を条件にメールの返答があった。果たして、A氏の会社を買収したF社側の“言い分”とは――?

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 この記事の後編では、「事業継承をする気はなく資金が狙いだったのでは」といった数々の疑問に対するF社代表の返答と、F社の主張に対するA氏の反論について詳報している。

デイリー新潮編集部

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