M&Aで「騙された」 2.6億円を失い借金4億円…夢の隠退生活を奪われた63歳社長の悔恨
日本ではいま、空前の“M&Aブーム”が起きている。2024年のM&A件数は前年比14%増の1221件(適時開示ベース)となり、17年ぶりに過去最多を更新した。件数急増の背景にあるのは、後継者不在や人手不足など、日本の抱える「人口減少」の問題がある。銀座に店舗を展開し、高級スマホケースの製作・販売を手掛けていたA氏がM&A仲介企業の“提案”に乗ったのも、同様の悩みを抱えていたためだった――。
(前後編の前編)
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後継者不在を理由に会社の売却を決意
「私の会社は主にスマートフォンのケースなどを国内外の工場で製作し、携帯ショップや大手量販店に卸す事業を展開していました。調子が良かった頃は年商28億円ぐらいあったんですよ」
“被害”を訴えるのは、都内在住の経営者A氏(63)である。
「転機になったのはコロナ禍でした。銀座にスマホのアクセサリーを販売する自社店舗を持っていたのですが、客足が一気に遠のいて経営が苦しくなりました」(同)
時に、不幸は重なるものである。A氏は同じ頃、首の靭帯が少しずつ「骨化」してしまう後縦靭帯骨化症という難病指定の病気を患ってしまう。
「資金繰りの悪化に私の病気が重なって、そろそろ潮時かな、と感じていました。妻が経理担当、ほかに社員が20名という小さな会社でした。後継者といっても子どもたちは自分の仕事を持っています。事業を継承してくれる第三者に売却した方が、いつ倒れるか分からない自分よりも取引先や金融機関にとっても良いはずだと考え始めました」(同)
ちょうどその頃、M&Aの仲介業者T社の営業担当者がたびたび会社を訪ねてきた。
「“後継者がいないのなら、売却のお手伝いをさせてください”と。熱心に営業され、条件を聞くうちに、悪くないなと。T社にM&Aの仲介をお願いすることにしたのです」
孫に囲まれながら静かに過ごすはずだった余生を、滅茶苦茶にされてしまうなど、この時のA氏は知る由がなかった――。
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