フジテレビ騒動の皮肉な効果… 差し替え「AC」広告のおかげで“刺さる”今期ドラマ
今季のドラマでは、フジテレビで放送中のドラマ「日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった」が面白い。昨年、大ヒットして流行語大賞も生んだTBS「不適切にもほどがある!」に通じる、“昭和的な価値観”と“令和の価値観”とがせめぎ合う構図が描かれている。【水島宏明 ジャーナリスト/上智大学文学部新聞学科教授】
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主人公の大森一平(香取慎吾)は、元テレビ局のニュース番組のプロデューサー。不祥事によって退職を余儀なくされ、現在は“政治ジャーナリスト”を自称しながら、次の区議会議員選挙を見据え、地元での知名度を上げようとする野心家だ。亡き妹・陽菜(向里祐香)の夫の小原正助(志尊淳)とその子どもたちと同居しているのは、イクメンをアピールポイントにしようとする“不純な目的”があるため。「ニセモノの家族」を利用しホームドラマを演じる一平だが、時に意図せず子どもたちを取りまく問題と向き合うことになる。ゆくゆくは一平の心境が変化し「ニセモノの家族」が本当の家族になっていくという展開になりそうだ。
一平の姪っ子の小学5年生のひまり(増田梨沙)は“不登校気味”だ。1月16日放送の第2話では、闘病中で頭髪のなかった母の写真をからかわれたことに怒り、クラスメイトを突き飛ばしてケガを負わせてしまう。この出来事で学校に完全に通えなくなる。
ドラマでは、こうした「子ども」をめぐるデリケートな問題がたびたび登場する。
1月23日放送の第3話では、一平が不登校の子どもたちを連れていくキャンプを企画した。もちろん「選挙に向けた人気取り」を目論んでのことだが、本格的な不登校とまで行かずとも、ひまりのような学校に通いにくい子は実際に少なくない。ひまりの学校にも“不登校気味”の男子がおり、一平は彼をキャンプに誘った。キャンプではひまりが亡き母の牛丼のレシピを披露し、自信を取り戻した。子どもたち同士が楽しい時間を過ごし、絆も深まる思わぬ効果があった。
AC広告の思わぬ効果
このドラマには不登校だけでなく、「子ども」をめぐるLGBTQなどの性的少数者の問題、生理など、様々なテーマが散りばめられている。その都度、現代の日本の子どもたちにとっての「幸せ」とは何だろうか?と視聴者に考えさせるような構成になっている。
そこで思わぬ効果を生んでいるのが、間に挟まるCMだ。
中居正広氏をめぐる問題で、フジテレビの番組からスポンサーが次々に撤退し、CMがACジャパンの広告に差し替えられているのはご存じのとおり。実はこのACジャパンの広告は「子ども」がテーマになっているものが多く、良い効果を発揮しているのだ。
たとえば第3話の合間には、野球をやりたい男の子が「今は勉強だけしてればいいの。全部あなたのためだから」と母親から肩を押さえられる映像と共に「子どもの精神的幸福度先進38か国中37位」というデータを示す「ユニセフ」のCMが流れた。
「プラン・インターナショナル」のCMでは、俳優の有村架純のナレーションで「女の子という理由で学校に通わせてもらえなかった」と語られ、アフガニスタンのように性別を理由に満足な教育が受けられない国や地域が存在することを教えてくれる。
「キッズドア」のCMでは、「スタートラインはみんな同じだと思っていた」と、徒競走で他の子より後ろからスタートさせられる女子のアニメが流れた。「頑張ってるのに一生追いつけないのかな。私は未来を選べないんですか?」「キッズドアは学習支援で子どもたちが夢や希望を描ける社会を目指しています」という紹介が入る。
ドラマの間にこうしたCMが入ることで、現代の子どもたちが置かれている状況がわかる。視聴者に子どもの問題を考えさせる仕掛けになっている。フジの騒動の余波での皮肉なことだが、この作品が問いかけるテーマの意味を際立たせ、非常に効果的なものになっている。
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