いま誰よりも「一票の重みを知る男」を直撃 市議選で最後の議席が同数…「くじ引き」の結果に本人は納得しているのか

国内 社会

  • ブックマーク

慢心があったのだと思う

 1月26日に投開票された佐賀県唐津市議選で珍事が発生した。35人が28議席を争う形になったが、最後の当選者たる28番目に2人が1174票で並んだのだ。無所属現職の原雄一郎氏(50)と無所属新人の古田リバー氏(47)だ。公職選挙法では、最後の枠が同数だった場合は“くじ引き”で決めることになっており、古田氏がくじ引きの末に勝利。二人は握手を交わし健闘を称え合った。

 まさに「日本有数の『一票の重み』を知る男」となった原氏。ややふっきれた感はあるものの、傷心のご本人に話を聞いた。原氏は議員在職中に高校生を中心とした若者の自立と成長を支援する活動をしており、高校生の起業家精神を育て、「やりたい」を後押しするNPO法人「WeD」とも関係が深い。多くの候補者が若者向けの聞こえの良いことを街宣車や公約で述べるなか、原氏には自分こそ最も若者支援をしてきたとの自負がある。だが、負けた。一体なぜか。

「私がこの2期、8年やってきた実績があれば選挙に通るという慢心があったのだと思います。選挙というものは、選挙期間中の街宣車等による活動だけでなく、普段から色々なところに顔を出したりして票固めをしていくものです。しかし私は通常の議員活動や、高校生関連の普段の仕事に比重をかけていたんです。そうすることが現職議員として、また高校生を支援する立場として当然だと思っていました。そして、選挙とは本来それらの評価で判断されるべきだと思っていました。これが甘かったですね…」

初めての経験

「周りの人も『雄一郎やったら普通に勝てるやろ。実績あるけんね』と言っていたので、安心感が出てしまったんですよね。でも、途中から『何か違うんじゃないか』という胸騒ぎがして、『お前、ちゃんと票固め活動せないかんよ』なんてことも言われ、不安が頭をよぎるようになりました」

 開票は深夜0時近くまでかかり、このままでは翌日に持ち越しだな、と自分のふがいなさに不貞腐れて原氏は寝ようとした。そこに選管から電話が来た。「原さん、同数でくじになりました。選挙管理委員長がくじを引くのでそれでいいですね?」と彼は言う。原氏は慌てながらこう伝えた。

「いやいやいや、1000人以上の人が私に入れてくれたその思いの最後の着地点を、他の人に委ねるなんてできませんよ。私が自分で引くべきですし、引かないといけません。お相手の方にもそのように伝えていただけますか? 結果には納得したいんです。あと、委員長だって唐津市の将来を左右するくじ引きなんてしたくないでしょ? 今から行きますので」

 こうして原氏は開票所へ向かった。どうやら選管もくじ引きは初めての経験で、「委員長がくじ引きで同じ得票数の候補者から当選者を決定する」といった 規約を「委員長がくじを自ら引く」と解釈していたようだ。原氏は道中「オレ、1000票の思いの乗っかったくじ引きなんてやりたくね~!」と思い続けていたという。

次ページ:混ぜたほうがいいんじゃない?

前へ 1 2 3 次へ

[1/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。