「清澄白河がカフェの聖地に!?」と驚愕 作家・日野瑛太郎が「東京の中の故郷」と呼ぶ街の変化…実際に見に行ってみると
田舎者でも肩肘張らずに生活できる気安さ
2024年、『フェイク・マッスル』で第70回江戸川乱歩賞を受賞しデビューした作家の日野瑛太郎さん。茨城県生まれの彼が、東京大学進学を機に上京し住んだのは、いまや「カフェの聖地」と呼ばれる清澄白河の地だった。この20年で、街は大きく変わったというが……。
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もう約20年も前のことになるが、当時20歳だった僕は、大学への進学を機に東京で一人暮らしを始めた。
最初に住んだ街は清澄白河(きよすみしらかわ)である。僕はすぐにこの街を好きになった。
まず下町っぽい雰囲気が自分の肌に合っていた。茨城の田舎から出てきた20歳の若者に、いきなり都心での生活はハードルが高い。でもこの街はそんな田舎者でも、肩肘張らずに生活できる気安さがあった。
駅前の古びたスーパーは品ぞろえ豊富で値段も安いし、道行く人はおしゃれな都会人というよりも世話焼きのおばちゃんといった感じ。実際こちらが困っているとよく話しかけられた。
「カフェの聖地」と聞いて驚愕
寺が多いのもよかった。といっても、奈良や京都のように、観光地としての寺が多いという意味ではない。一般公開をしていない、とても小さな寺がこの街には点在しているのだ。たぶんコンビニの5倍ぐらいの数はあったのではないだろうか。当時僕が住んでいたアパートの向かいにも寺があり、ベランダで洗濯物を干しているとよく読経の声が聞こえてきたものだ。こういった環境を嫌がる人もいるだろうが、僕はなんだか風情があるなと、勝手にプラスの評価を下していた。
大学への通いやすさに難があり、結局は1年と少し住んだ後に引っ越してしまったのだが、それでも清澄白河は僕にとって特別な街だ。最初に一人暮らしを体験した、東京の中の故郷みたいな存在である。
そんな清澄白河が、いまではカフェの聖地と呼ばれているという。その話を聞いて耳を疑った。少なくとも僕が住んでいた頃は、カフェらしいカフェなんてほとんどなかったはずである。コーヒーを飲みたい時はもっぱら駅前のマクドナルドに行ったが、あれはカフェとは違うはず──。
なんでも2015年にブルーボトルコーヒーの1号店がオープンしたことを皮切りに、次々とおしゃれなカフェが出店してきて、いまではもう清澄白河はすっかりカフェの街なのだそうだ。グルメサイトで調べてみると、駅から500メートル以内の範囲だけで、47軒もカフェがあるというではないか。中には焙煎所が併設されたカフェまであるそうだ。そりゃ20年もたてば街の様子も変わるだろうが、こうもガラリと変わってしまうものなのか。あの独特の下町情緒あふれる街は、もう消えてしまったのだろうか。
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