雪国を悩ませる深刻な「除雪格差」…“下手な”自治体では「車がすれ違えず渋滞が日常茶飯事」 知られざる最大の原因とは

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除雪には職人技が必要である

 A氏は不満が蓄積しているようだ。しかし、筆者は東北地方をたびたび取材で訪れているが、県ごとの格差というよりも、市町村による格差が存在する気がする。秋田県でも国道や県道が酷い状態になっていることはあるし、青森県でも特に雪を気にせず移動できたことはある。もっとも、そのときは新青森駅から青森駅に移動する道だったので、しっかり除雪がなされていたのかもしれないが。

 実際に、自治体から委託を受けて除雪を行っている建設会社のX氏に話を聞くと、やはり除雪の技術は業者によって差があるのだという。そして、「除雪は職人技が発揮される仕事で、下手な業者が多い自治体だと、確かに目も当てられないことになっていると思います。雪の多い少ないは関係ないと思いますね」と話し、こうも続ける。

「はっきり言って、除雪が下手といわれる業者にも同情してしまうんです。というのも、雪国はどの自治体も過疎化が進んでいて、若い働き手がいない。除雪車を運転できる人材の確保に、苦悩している業者は多いんですよ。どこの 業者も人手不足で、賃上げもしていると思う。しかし、私たちの業界は体育会系とかキツいというイメージが強くて、若い人たちに嫌厭される傾向が強いんですよ」

 X氏の会社で除雪を担当している社員は、50代、なかには60代というベテランもいる。全員、地域の道路事情を知り尽くしたベテランぞろいだが、後継者となる若い人材が育っていないのが問題という。「ベテランが引退した後、除雪に従事する人がどれだけ出てきてくれるか、心配です」と嘆く。

深刻化する建設業界の人材不足

 現在、建設業界は人手不足に喘いでいる。雪国では、除雪を地元の建設会社が担っている例が少なくないが、慢性的な人手不足に追い打ちをかけるように大雪が続く。日によっては除雪車が一日に何度も出動しても、除雪が追い付かないこともある。そのたびに、貴重な人手が除雪のために取られてしまうのだ。X氏が切実そうに言う。

「これははっきり言っておきたいのですが、除雪は、誰でも簡単にできる仕事ではないんです。縁石に乗り上げたり、路面を傷めたりしないように除雪車を運転するためには、しっかりと人材を育てなければいけない。しかし、自治体も財政難だからと言って、除雪費を削減する傾向がある。これでは、住人のライフラインが確保できませんよ」

 X氏の会社には、大阪・関西万博の会場整備に協力してほしいと依頼があったと言うが、「ただでさえ人が足りないのに、万博どころじゃない」と断ったという。政府は地方創成を長らく訴えているが、肝心の地方のライフラインの整備には及び腰だ。一時的に大きなイベントを行うよりも、地方に暮らす人たちがずっと住み続けられるように、環境を整備していくことのほうが大事だと思うが、いかがなものだろうか。

取材・文=宮原多可志

デイリー新潮編集部

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