中日“譲渡金たった1億円”でも…小笠原の「駆け込み合意」に肝を冷やしたワケ 「どうしても決まって欲しかった」高橋宏の予行演習にとどまらない果実とは?
大塚以来のポスティング利用
近年、中日は課題の貧打線とは対照的に、リーグ屈指の投手力を誇ってきた。しかし、絶対的なクローザーのライデル・マルティネス投手が巨人に移籍することで、小笠原と合わせ、先発とリリーフで枠が空こうとしていた。
「レギュラーが抜ければ、穴埋めに誰かが台頭する世界です。競争が活発化していたので、出戻り回避はプラスに考えられます」(同前)
長期的な視点に立っても、小笠原のポスティング成立は球団の利益につながる。中日では高橋宏斗投手(22)がこのまま順調に成長を続ければ、25歳になった後にポスティング移籍を容認することが確実視されている。高橋は、米球界で佐々木に続くスター候補との評価が不動のものとなっている。現行制度が維持された場合は、23年オフに投手史上最高契約でドジャース入りした山本由伸投手に迫るような巨額契約さえ取り沙汰される。そうなれば、中日は莫大な譲渡金を手にすることになる。
中日では03年オフの大塚晶文投手(現投手コーチ)以来、ポスティング移籍がなかった。球団フロントは03年当時からは体制が一新されている。
「ノウハウを得る意義は大きいと思います」(同)
イメージチェンジを重視
「彼の熱意は伝わっている。この時期(の移籍)が適切という判断をした」とは小笠原のポスティング移籍を容認した際の加藤宏幸球団本部長の言葉だ。
オリックスでは吉田正尚外野手(レッドソックス)と山本に対し、ポスティング移籍を容認したことで、合計100億円近い譲渡金を獲得した。これを元手に、ともに広島からフリーエージェント(FA)宣言した西川龍馬外野手、九里亜蓮投手を補強。さらに練習場などハード面への設備投資も可能になった。たとえ4番やエースが抜けたとしても、チーム力を大きく落とさないようにする手法が確立されつつある。
中日は12年を最後にクライマックスシリーズ(CS)出場から遠ざかり、長期低迷のまっただ中にいる。親会社の中日新聞が新聞離れでビジネスモデルの変化を迫られている中で、持続可能性が高い球団経営を目指す上ではポスティングで選手を輸出することは有効な手立てとなる。
「中日は20年以上もポスティング移籍を経験していませんでしたから……。小笠原のケースでは譲渡金の多寡に関係なく、球団内外に向けてポスティング移籍に前向きな球団というイメージの発信が一番、重要なことでした」
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