インドで「買いたい服がない」と悩んだ研究者・池亀彩が“サリー沼”にハマったワケ

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サリー沼にはまり……

 インド服に関するもう一つの転機はその1年後に訪れた。語学研修を終えて、マイソールの王族の調査を始めた私は、サンスクリット学者のお宅に居候させてもらっていた。その家の女主人が寺院の儀礼に来るならサリーを着ろという。サリーは自分には似合わないと思っていたのだが、寺院の儀礼に参加できる機会もそうそうない。仕方なく友人に着方を習い、借り物のサリーを着て参加した。だがそこで私はサリー沼にはまってしまったのだ。

 それまで王族の女性たちとうまくお喋りできず悩んでいた。彼女たちはサリーの話ばかりしていて、会話に入っていきづらい。だがサリーにはまった途端、私はサリーの話しかしなくなり、いつの間にか彼女たちと延々と語り合っていた。ダサいと思っていた町の商店は実は奥に素晴らしいサリーが山のように積まれていた宝庫だということも発見した。インドの服を通じて世界が輝き出したのだ。

池亀 彩(いけがめ・あや)
1969年生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授。著書に『インド残酷物語 世界一たくましい民』(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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