「妻はソウルメイトで、彼女は恋人」 42歳夫が10歳年下女性の肌に見た“運命の証”とは

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さすがに妻も…

 そのうち妻の梢さんも、「私、あなたのことがわからなくなりつつある」と言いだした。

 梢さんなら、全部打ち明ければ許してくれるかもしれないと思ったが、どうしても言葉が出なかった。

 千奈美さんには別れ話をもちかけた。「自分のようなおじさんは、あなたにはふさわしくない。実際、結婚する覚悟もできなかった。オレのことは忘れてほしい」と土下座した。だが千奈美さんは「謝らないで。結婚しなくていい。だからこのままで」とまた泣いた。流産にショックを受けている彼女を、これ以上傷つけたくなかった。だからまた会ってしまう。さすがの梢さんも気づいていると治樹さんにはわかっていた。それでも梢さんは何も言わない。

「梢さんが僕を試しているのではないか、気づいていながら知らんふりしているのは僕に興味がなくなったからではないかと思うようになりました。梢さんに見捨てられたら生きていけない。それがわかっているのに千奈美と別れられなかった」

「父と似たりよったりだ」

 話を切り出してきたのは梢さんだった。全部わかってる、あの子のところに行ってあげなさい。私はひとりで生きていけるから。そう言って当座の彼の着替えを詰めたバッグを手渡された。

「僕は梢さんとは別れられない、彼女と別れる。そう言ったけど、梢さんは、あの子はあなたが独身だと信じてるのよって。『私はいとこだと言って千奈美さんに会ってきた』と。千奈美に訴えられてもいい、僕は梢さんと一緒にいたいと言っていたら涙が出てきました。梢さんは『嘘をついたんだから責任とらなくちゃ』って。それでも僕が動かずにいたら、梢さんが出て行きました」

 彼はようやく千奈美さんに本当のことを言った。千奈美さんは「なんかおかしいと思ってた。訴えてやる」と泣き崩れたが、その手に虎の子の200万円を渡して「ごめん。許してほしい」と泣いて謝った。

「千奈美と別れたことは梢さんにも知らせましたが、彼女は戻ってきません。でもまだ離婚届は出していないんです。今は職場と家の往復だけ。梢さんが戻ってきてくれないと、僕の人生は進まない。身勝手なのはわかってる。彼女にはたまに連絡しています。今は相手にしてくれませんが、きっといつかわかってくれる。そう信じています」

 さらに彼はこう言った。「横暴だった父と似たりよったりだと思うと身が震えるほど悔しい。家族の人数は少ないけど、自分もまた家族を傷つけ、空中分解させてしまった」と。

「そんなつもりはなかった」

 人はよくそんな言い訳をする。だが、「つもり」はなくても起こってしまった事実は変えられない。彼は今、孤独に耐えている。ひとりになる時間をこよなく愛していたのに、今、ひとりの時間を過ごすのはつらい。彼はそうつぶやいた。

 ***

 すべてを失って「父に似ている」自分に気づいた治樹さん。その生い立ちが彼という人間に与えた影響はあまりに大きかったのかもしれない……。記事前編でその壮絶な半生を詳しく紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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