「妻はソウルメイトで、彼女は恋人」 42歳夫が10歳年下女性の肌に見た“運命の証”とは

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「家族と一緒に住んでいるから家には呼べない」

 それからはごく普通の恋人同士のように、デートを重ね、千奈美さんの部屋に寄るようになった。だが彼は泊まろうとはしなかった。彼女に定期的に会うようになって、自分が気軽に外泊できる身ではないと気づいたのだ。

「僕は家族と一緒に住んでいるから家には呼べない、ごめんねと言ってありました。昔と違って携帯電話さえあれば連絡がとれるから、住所もアバウトでしか伝えていない。彼女は都心に住んでいて、僕はちょっと郊外だったから都合はよかったけど」

 つきあいが長くなれば嘘も増えていく。嘘が増えていって初めて、「これはまずいことになりつつある」と感じた。本当のことを話さなくてはいけない。そう思ったが、彼女に嫌われたくなかった、失いたくもなかった。だから言えなかったと彼はうなだれた。

「梢さんはおかしいと思っていたようです。『最近、遅いのね。忙しいの?』って。そのころ僕は梢さんとは同じ会社とはいえ、オフィスも離れていたので会社で顔を合わせることはなかった。それでも共通の知り合いがいるわけですから、梢さんが僕の状況を誰かに聞けば、それほど忙しいわけでもないのはわかるはず。ただ、彼女はそういう探りを入れるようなことはしないと僕は思っていた」

あっちもこっちも嘘だらけ

 妻と恋人。どちらに重きを置いていたわけでもないが、先に不信感を口にしたのは千奈美さんだった。あなたって何か隠してない? どうして泊まってくれないの? 会うたび彼女はそう言うようになった。実は親の介護で……と彼は言い訳をした。

「でも今度、一泊で旅行しようか。なんとか時間を作るからと言ったら、彼女はとろけるような笑みを浮かべてくれた。梢さんに出張という言い訳は通らないから、生き別れた母親の消息がわかったから会いに行くと嘘をつきました。あっちもこっちも嘘だらけで、だんだん苦しくなっていった」

 レンタカーを借りての千奈美さんとの1泊旅行はワクワクしたが、彼女はあまり楽しそうに見えなかった。そして旅先で「私、あなたと家族になりたい」と泣かれた。もう潮時だ。これ以上は騙せない。そう思ったとき、千奈美さんが「妊娠しているの」と告げた。梢さんとの間では、まったくそういう兆候がなかったから、治樹さんは自分が子どもを作れない体質なのだと勝手に決め込んでいた。

「子どもができた。そう思ったとき最初に浮かんだのは、怖い、という言葉だった」

 私は産むから。そう言われて恐怖感が増した。どうしたらいいかわからなかった。だが千奈美さんに冷たくもできない。

「体を大事にしないと、と言いながら心の底から流産を願っていました。僕は最低の男です」

 結婚してくれないなら別れましょう。数週間後、千奈美さんにそう言われた。わかった、結婚を考えると答えた。そして数日後、千奈美さんは流産した。それはそれで「怖かった」と彼は言う。よくないことを願ったらその通りになってしまったというのは確かに心が重くなるだろう。

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