「妻はソウルメイトで、彼女は恋人」 42歳夫が10歳年下女性の肌に見た“運命の証”とは
【前後編の後編/前編を読む】結婚を秘密にしたまま独身女性と交際…「騙すつもりは」 42歳“偽装男”が育った家族崩壊の半生
小野田治樹さん(42歳・仮名=以下同)は、自身が既婚者であるのを隠し独身女性と交際した。「嘘をつくつもりはなかった」と釈明するが、その背景には暴力的な父に支配された家庭環境があった。ふたりいた弟のひとりは自死し、もうひとりは非行の道へ。しばらく実家を離れたのちに戻ってみると、母も末っ子の妹も行方をくらまし、父は見ず知らずの女性と暮らしていた。「あの父親にみんな犠牲になったような気がする」と治樹さんはいう。
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【前編を読む】結婚を秘密にしたまま独身女性と交際…「騙すつもりは」 42歳“偽装男”が育った家族崩壊の半生
そんな治樹さんが結婚を意識したのは35歳のときだった。
「インフルエンザで高熱を発して起きられなくなった。会社に電話して休むことは同じ部署の先輩女性に伝えたんですが、かなり朦朧としていたみたいで。彼女が心配して、同僚男性と一緒に来てくれたんです。おかゆなら食べられるんじゃないかと作ってくれたりもして。ふたりが帰っていくのを見て、あのふたり、前から仲がいいよなと思ったのを覚えています」
数日後、ようやく熱が下がって出社すると、彼女が「快気祝いしよう」と誘ってくれた。治樹さんは以前から、梢さんというその先輩が好きだった。とはいえ恋愛感情だとは自覚していなかった。そもそも恋愛感情がどういうものか、彼はわかっていなかった。
「単純に人として好きだった。3年先輩なんですが、梢さんと話すと、なんだか気持ちがいいんですよ。まっすぐな感じで嘘がない。わけのわからない親に翻弄されてきた身としては、まっすぐ正直に生きて人を傷つけない彼女が天使に見えました」
「彼女にリードされて生きていきたい」
会社近くの小料理屋で一緒に鍋料理を囲んだ。少し酔ってきたころ、梢さんが言った。「誰か好きな人はいないの? 社内の人なら私が橋渡ししてあげるよ」と。
「あなたが好きですと言ってしまいました。彼女にリードされて生きていきたい。あのころもう人生に疲れていたんだと思う。誰かにすがりたいけどすがれない。そんな感じだったんです」
梢さんは笑いながら、「そうやって年上をからかうんじゃないの」とたしなめた。本当なんだと彼は言った。
「彼女、モテるんですよ。でもそのころは、たまたま恋人がいない時期だったようです。僕は、とりあえず寝ませんかと言いました。そこから何かが生まれるかもしれないからと。すると彼女は、おもしろいことを言うのねって」
冗談のようにしてしまえば、うまくいかなくても憎み合わずにすむのではないか。治樹さんにそんなカンが働いたらしい。ふたりは彼のアパートに行き、ひとつの布団にくるまった。
「なんだかずっと笑っていて、すごく楽しかった。セックスするより、いちゃいちゃしているのが楽しかった。笑いながらいろいろ話して、またいちゃいちゃして、また話して……。翌日が土曜日だったから、そのまま朝までべったりくっついていました」
少し寝て昼頃起き、ふたりで近くのカフェでブランチをとった。その後、部屋に戻って彼の趣味である古い映画のDVDを一緒に観た。そのとき観たのはフランス映画『男と女』だった。アヌーク・エーメが好きなんです、そして梢さんはアヌーク・エーメにちょっと似ていたと彼は少し照れた。
「彼女は映画を観たあと泣いていた。そして実は20代初めに愛した男性が事故で亡くなっていたと告白されました。まだ彼女の心の中に彼が生きている。でも僕はそれでもよかった。その傷を一緒に背負うのは無理かもしれない。でもあなたの隣を歩きたい。そう言いました。そして半年後に婚姻届を出したんです」
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