「葉酸摂取で医療費が全国最低水準に」 92歳の現役栄養学者が教える超健康法 「信仰心、ヨガや気功なども長寿に関係」

ドクター新潮 ライフ

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ヨガや気功で合成酵素が増加

 親鸞89歳、天海108歳。歴史上の僧侶は、当時の平均寿命を考えると驚くほどの長寿です。私は、あつい信仰心に基づいた精神力が長寿の原因の一つなのではないかと考えています。なお私の恩師であり、105歳まで生きられた聖路加国際病院名誉院長の日野原重明さんも敬虔(けいけん)なクリスチャンとして知られています。

「精神力」などというものは非科学的な迷信の類いに過ぎないと考えられてきましたが、近年の研究ではヨガや気功によって、全ての生命活動のエネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)の合成酵素が増えると指摘されています。また、おいしい食事や楽しい行事はドーパミンの分泌量を増やし、循環器の緊張を緩和して動脈石灰化を防ぐとの研究結果もあります。やはり、信仰に限らず、広い意味での強い精神力や健全な精神性と、長寿との間には関連があると考えられるのではないでしょうか。

生涯現役は何のためか

 最後に、改めて健康寿命の大切さについてお話をしたいと思います。

 男女合わせた日本人の平均寿命は84.3歳と世界一で、昨年9月時点における百寿者の数は9万5119人と54年連続で過去最多を更新しています。日本はいま、間違いなく人生100年時代に突入しているといえます。

 しかし、女子栄養大学の学生にアンケートを取ると、43%が100歳までは生きたくないと回答しました。100歳まで生きられる国なのに、そこまで生きたくない……。その大きな原因は、健康寿命にあるのだと思います。

 現状では、「寿命」と「健康寿命」の間に約10年の開きがあります。つまり、最後の10年程度は、認知症や何らかの病気・障害を抱え自立的な生活を送れていない。そうまでして長生きしたくないと考える人が少なくないのでしょう。ということは、裏を返すと、健康寿命を延ばせれば100歳まで生きたいと望む人も増えるはずです。

 今年は、団塊の世代が全員75歳以上となり、後期高齢者の仲間入りを果たす「2025年問題」の年です。高齢化率の上昇に伴い、要介護者の数も増え続けています。このままでは医療費は膨らみ続け、少子化で介護の人手が足りず、海外から呼ぼうにも給与の面などでいまの日本はあまり魅力的な国とはいえません。さらに、「科学技術指標2024」における注目度の高い科学論文数では、日本の順位は韓国やスペインの後塵を拝して13位ですから、もはやこうした問題を解決するための新しい技術を開発する力も失われています。

 この状態を救えるのが、実は高齢者なのです。健康寿命を延ばすことで、医療や介護への負担を減らすことができる。つまり、生涯現役を目指すのは「私」のためであると同時に「公」のためでもあるのです。

 私は、幸福の基本は人々への献身だと考えています。健康寿命を延ばせれば公にも役立つ。それはまさに幸福な人生といえるのではないでしょうか。

香川靖雄(かがわやすお)
女子栄養大学副学長。1932年生まれ。東京大学医学部卒業。聖路加国際病院、米国コーネル大学客員教授、自治医科大学教授などを経て、女子栄養大学の副学長に。専門は生化学、分子生物学、人体栄養学。『老化と生活習慣』『科学が証明する新・朝食のすすめ』などの著書があり、昨年、『92歳、栄養学者。ただの長生きではありません!』(女子栄養大学出版部)を上梓した。

週刊新潮 2025年1月30日号掲載

特別読物「私の生活ルーティーンを全てお話しします 92歳『現役栄養学者』の超健康法」より

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