昭和天皇のすい臓がんはなぜ「慢性すい炎」と発表されたのか 衝撃の舞台裏に迫る

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「すべて侍医にお任せする」

 皇太子夫妻が10月12日、帰国報告とお見舞いを兼ねて御所を訪れた後、侍医長は侍従長と同席して、夫妻に陛下ががんであることを説明する。

 体力からして、がん組織をすべて取り除くのは無理で、放射線療法や抗がん剤によってがん組織はたたけるが、正常細胞も一緒にたたかれて体力を弱め、食欲が落ちてしまう可能性がある。医療が原因となる「医原性」の病気を極力避けるため、副作用のある治療法は取らず、積極的な治療を避けて、陛下に苦痛がないように長寿を全うしていただく、というのが侍医長の治療方針だった。

 皇太子さまは黙って聞き入り、最後に「すべて侍医にお任せするので、よろしくお願いします」と言った。

 その12日後の同24日、皇太子さまは陛下の名代として沖縄を訪問し、「長年の沖縄の苦難に深い悲しみと痛みを覚える」と天皇のお言葉を代読した。この時、皇太子さまが父の真の病名を心中に秘していることに、国民は気付かなかった。

(以下、次回)

斉藤勝久(さいとうかつひさ)
ジャーナリスト。1951年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。読売新聞社会部で司法を担当したほか、86年から89年まで宮内庁担当として「昭和の最後の日」や平成への代替わりを取材。近著に『占領期日本 三つの闇 検閲・公職追放・疑獄』(幻冬舎新書、1月29日発売)。

週刊新潮 2025年1月30日号掲載

特別読物「ドキュメント 昭和天皇崩御 「玉体にメス」で判明した「すい臓がん」はなぜ「慢性すい炎」と発表されたのか」より

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