トランプ大統領就任でインフレ再燃の恐れも…投資が消費を抑制するという「NISA貧乏」批判の本質的な間違い

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「貯蓄から投資」というより「貯蓄としての投資」

 新NISAを使ってリスク性資産の保有割合を増やし、インフレから「防衛」を図った結果、個人消費に回す原資が限定される状況に行きつくことは必然と言える。結局、「NISA貧乏」という現象は本質的にインフレを起点とする消費抑制だと言える。

「NISA貧乏」というフレーズはいかにも消費から資産運用へ軸足が移ることをけん制するような意味合いが込められていそうだが、筆者はそのような指摘は正しくないと思う。デフレ下で現預金を「貯蓄」としてため込む行為も、インフレ下で株・投信・不動産等へ「投資」する行為も経済・物価情勢に合わせた最適行動という意味では同じなのだ。

 少なくとも投資のせいで「貧乏になっている(だから消費できない)」かのような言説は本質的とは言えない。

 新NISAを介した投資行動は貯蓄的な色合いを持っていると理解すべきである。実状は「貯蓄としての投資」が流行っているというのが近いのではないだろうか。

 政府・与党は金融教育を経て家計の金融リテラシー向上を希求しているが、図らずとも実体経済の激変と新NISA稼働のタイミングが重なったことで家計はこれまでより合理的な経済行動を選択するようになっているように思える。

円安が終わらないなら「貯蓄としての投資」は続く

 2025年の金融市場では米国の中央銀行であるFRBの金融政策運営に関し「利下げの終わり」が争点化しそうである。とすれば、日米金利差という観点からは再び円安が再起動しやすくなる年とも言える。

 確かに、第二次トランプ政権はドル安・低金利を口では望んでいるが、トランプ大統領が希望する政策(財政政策は拡大、金融政策は緩和、移民は強制退去など)をすべてやれば米国のインフレは収まらず、再燃する恐れすらある。少なくともトランプ大統領自身が「終わらぬインフレ」の体現者になりそうな中、やはり米国については「利下げの終わり」を想定して置くのが合理的であろう。片や、日本銀行が利上げをできるとしてもあと1~2回であろう(この点は紙幅を要するので詳細は割愛する)。

 見通せる将来において円安発・輸入物価経由のインフレが収まりそうにないことを思えば、2025年も家計は「貯蓄としての投資」を合理的に選択するのではないかと考えたい。

※コラムはあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔
みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て現職。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社)、など。note「唐鎌Labo」にて情報発信中。

デイリー新潮編集部

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