トランプ大統領就任でインフレ再燃の恐れも…投資が消費を抑制するという「NISA貧乏」批判の本質的な間違い
「防衛」としての「投資」行動
つまり、昨年来、可処分所得や貯蓄の小さくない部分が投資に回っていることで個人消費が制約されているのではないかとの論調が強まっているのだ。一部では「NISA貧乏」というフレーズもあるそうだ。確かに、理論上、そうしたことは起こり得るだろうし、実際にそうなっている可能性も否定はできない。
しかし、「消費を削って投資に回す」という状況は果たして世間で言われるほど、非合理的なのだろうか。筆者はそう思っていない。
この状況は近年、「インフレ税で個人消費が抑制されている」という日本経済に指摘されている現象と同根である。多くの読者の方々が体感するところではないかと思うが、インフレにより財・サービスの物価が上昇し、今までよりも消費できなくなってしまったといういまの状況はインフレという経済現象が増税のように所得を制限するためインフレ税と呼ばれる。
現在の日本で指摘されている「消費を削って投資に回す」という状況もインフレに促されたという意味で共通しているように思える。おそらく、現在の家計が行う資産運用は「投資」である以前に「防衛」という側面も大きいのだろう。家計は何から資産を「防衛」しているのか。言うまでもなくインフレから「防衛」しているのである。
2022年3月を起点とすれば、円は対ドルで最大で40%以上も下落している(113円と162円を比較した場合)。最も安全と思われていた円の現預金で抱えているだけで対ドルでの円の価値が40%も削られる状況を受けて、自己資産に対する防衛本能が刺激されたはずだ。天然資源の90%以上、食糧の60%以上を輸入に頼る日本で暮らす以上、通貨安は輸入物価上昇を通じて全国民を満遍なく直撃するからである。
その傍らで日米株式ともに史上最高値更新が断続的に報じられ、国内不動産市場も活況を呈しているのだから、国民が「何かしなくてはまずい」という漠然とした不安を駆り立てられるのは当然である。その際、国が用意したツールである新NISAは投資を決断する格好の契機となるだろうし、預金よりも株式などのリスク性資産、その中でも円ではなくドルを中心とする外貨という選択になるのは合理的な結果と言える。
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