「セ・DH制」議論が過熱…かつて“100%賛成”と言い切った阪神「藤川球児監督」の複雑な胸中
セもDH制を導入する?
阪神・大山悠輔(30)が自主トレを公開したのは1月24日だった。室内練習場での打撃練習に多くの時間を割くスタイルは例年通りだが、このオフは練習後のリカバリーを兼ねた水泳やヨガを取り入れ、病院でDNA検査を受けるなど、新しい知見も取り入れてきたという。調整は順調に進んでいるようだが、今季のタイガースのチーム編成において気になる点もないわけではない。
【写真を見る】昨年オフ「最高の補強」となった大山悠輔と、チームを支えるトラ戦士
「国内フリーエージェント権を行使した大山の残留は、『今オフ最高の補強』となりました。でも、去就が不透明だった昨秋キャンプでは、外野手の井上広大(23)が一塁の守備練習を懸命にこなしていたのです」(在阪記者)
昨季はノイジーの負傷で外野起用された前川右京(21)がチャンスを掴み、飛躍のシーズンとした。後輩に先を越された井上にも期するものがあるはずだ。
一方で1月20日、プロ野球の12球団監督会議が都内ホテルで行われ、セ・リーグの「指名打者制(以下=DH制)」の導入論に関して意見交換がなされた。安易な発想ではあるが、DH制は大山と井上を同時にスタメンで起用する方法でもある。
「昨季、レフトの定位置を獲った前川も、キャンプにファーストミットを持参すると話していました。複数のポジションができるようになれば出場機会も増えるかもしれませんが、一塁には大山がいます」(前出・同)
DH制が導入されることになれば、ポジションが重複する問題は解消され、打線強化にも繋がるはず。今年からタイガースを指揮する藤川球児監督(44)は、監督会議の席で賛否を述べなかったが、会議後、トラ番メディアに囲まれ、改めて賛否を問われると、
「結局は監督会議では(導入するかどうか)決められないこと。全てはNPBに預かってもらう話ですよね。(プロ野球全球団の)12票が集まったからと言って、それがすぐにどうこうなるわけじゃない」
と、はぐらかした。監督会議は、ペナントレースの運営やルール変更を協議する実行委員会とは異なる。実行委員会がゴーサインを出したとしても、その上にはオーナー会議があり、12球団のオーナーたちが却下すれば、何も変わらない。藤川監督の言う通り、監督会議には何の決定権もない。しかし、セ・リーグのDH制が避けては通れない議案になってきたのは事実だ。
「事の発端は1月6日、NPBの仕事始めにおける榊原定征コミッショナー(81)の発言です。コミッショナーが『50何年もセとパでルールが違うのはノーマルな状態ではないと思います』と言った以上、議論しないわけにはいきません。今季の実行委員会でも取り上げていくと聞いています」(在京球団スタッフ)
榊原コミッショナーはDH制の長所と短所も述べ、ファンの意見にも耳を傾けて“整理”していくべきだと話していた。藤川監督も監督会議で提議されることは察していたはず。それでも「監督会議では決められない」と持論を述べなかった理由はどこにあるのか?
きっかけは巨人?
「20年、巨人の監督だった原辰徳氏(66)が日本シリーズでソフトバンクに4連敗を喫した敗因を語り、そのなかでDH制導入論も主張しました。翌21年から解説者となった藤川監督は、セのDH制導入について賛成するコメントを出していました」(前出・在阪記者)
実際、21年1月15日付のスポーツ報知で「セパの実力格差」と題したテーマを振られた際、当時の藤川監督はセのDH制について「100%賛成。来季からの導入が望ましい」と言い切っている。DH制がないことによる采配の妙は認めつつも、攻撃時の作戦に加わる投手の負担を挙げ、その軽減によるレベルアップや、「9番=投手」の打順によって8番打者は極端に厳しい配球を受けている実情などを訴えていた。
それなのに、今回の12球団監督会議で藤川監督はセのDH制導入について意見を述べていない。
「反対意見を述べたのは、ヤクルトの高津臣吾監督(56)と、広島の新井貴浩監督(48)です。高津監督は会議後のぶら下がりでも言っていましたが、本拠地の神宮球場はブルペンがファールゾーンにあるので、誰がリリーフ登板の準備をしているのかが丸見えなんですね。それを逆手に駆け引きに使ってきたと説明していました。新井監督も『戦略の幅があるのは、ピッチャーが打席に立つほうで、そっちのほうが面白い』と発言していました」(前出・在京球団スタッフ)
監督会議後に藤川監督が熱弁をふるったのは、ファンサービスや試合運営についてだった。「フリートーク」の場面になって、MLB球団のロゴが入ったTシャツや帽子をかぶって選手が自主トレに勤しむ姿に疑問を呈していた。NPBのブランド力を高めるため、インタビューを受ける場面だけでも自軍のマークの入ったものに着替えるべきだと提案した。この意見には議長を務めた千葉ロッテ・吉井理人監督(59)、巨人・阿部慎之助監督(45)も頷いていたそうだ。
藤川監督がDH制について持論を語らなかった理由は、「球団との意見調整」にあるという。
「岡田彰布前監督(67=現顧問)がDH制導入には反対の立場だったんです。DHのあるパ・リーグのオリックスで、選手と監督の経験があり、投手が打席に立たない分、駆け引きがないので継投策が簡単だとの持論でした。前監督時代の23年1月の監督会議でも『監督が楽すぎる。あんまり野球に入っていく気がない』などと述べています。以後、阪神はこの岡田氏の持論を球団の意見としてきたので、藤川監督も積極的な発言を控えているのかもしれません」(前出・在阪記者)
とは言っても、セ・リーグのDH制導入を最初に公言した巨人・原前監督の後任である阿部監督もこの件についてはダンマリを決め込んでいたそうだ。
気になるDH制導入論の行方だが、複数の関係者は監督会議後、「継続して審議していく」と話していた。賛成の意見は出なかったものの、今後も審議していくということは、榊原コミッショナーの言う「セとパでルールが異なるのは異常」という疑念を解消しなければならないと、セ6球団も“覚悟”しているのかもしれない。
「阪神もフロントと藤川監督でDH制に関する意見調整をしなければならないでしょう。このまま導入の動きが加速するとしたら、NPBも『WBCなど国際大会に合わせた対策』という大義名分で、反対する球団を説得すると思われます」(NPB関係者)
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