トランプ政権を揺るがす「オピオイド危機」…アメリカで年間10万人の命を奪う「史上最悪の麻薬」は日本にも上陸するか?

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日本でも流行の兆しはあるのか

(7)誰がなんのためにこんな恐ろしい麻薬を密造するのか?

――詳細は省くが、主としてメキシコの犯罪組織「シナロア・カルテル」と「ハリスコ・カルテル」、これに中国、カナダ、最近ではゴールデントライアングルの密造・密輸組織が絡んでいる、とDEA等米連邦捜査機関は見ている。これら犯罪組織は使用者の命を貪りながら、小国家の予算並みの犯罪収益を獲得しているのだ。子細は明らかになっていないものの、密造を指南する専門家が雇用されていることも間違いない。

(8)がん患者が痛み止めとして繰り返しオピオイド鎮痛薬を使う場合、依存症になったり、死亡したりすることはないか?

――がんのような強烈な炎症がある場合、医師の指導のもと、処方薬として適正に使用する限りそのような心配はない。むしろ我慢せずに積極的に使うべきでる。がんの疼痛緩和は「WHO方式がん疼痛治療法」に従って行なわれている。鎮痛剤の選択は患者の訴える痛みの強さに応じて決められ、軽度の痛みであれば非オピオイド、中度から高度の痛みにはオピオイド鎮痛薬を使用するし、非オピオイドとオピオイドを併用する場合もある。

(9)日本でフェンタニルが流行する兆しはあるのか?

――幸いなことにその気配は窺えない。密造品が密輸されたという情報にも接していない。だが、次のような事件は発生している。

・2025年1月、仙台市の病院に勤務する麻酔科医が治療以外の目的で自分の体に医療用フェンタニルを注射したとして逮捕される(更衣室で倒れていた)。
・2023年2月、フェンタニルシール(※貼付剤=フェンタニルを含有し皮膚から吸収させる医薬品)を交際相手の男性に複数枚貼り付けるなどして死なせた疑いで47歳の女が逮捕される。

 一方で、日本の薬物流行は、覚醒剤以外はそのほとんどが音楽や映画文化と同じように、アメリカから到来している。そう考えると今後フェンタニルが流行しないとは言えない。密輸した他の薬物に混入されている場合もあるだろうし、呼び名を変えて入ってくる可能性もある。最近、欧米では“レインボーフェンタニル”と呼ばれるカラフルな錠剤が出回っている。一見お洒落なMDMAに見えるが、これが日本に上陸すると「かなりやばい」と筆者は考えている。他殺に使われる可能性も否定できない。そのためにも国全体で徹底的に目を光らせ、あらゆる情報を収集・分析し継続的に注意喚起することが必要だ。薬物問題は優先順位が高いと考えてほしい。

第1回【ヘロインは「死ぬかも…」だがフェンタニルは「死ぬ!」 “ゾンビタウン”が急増するアメリカで元マトリ部長が目撃した“悪夢のような光景”】では「ゾンビの徘徊する街」の実態を詳報している。

瀬戸晴海(せと はるうみ)
元厚生労働省麻薬取締部部長。1956年、福岡県生まれ。明治薬科大学薬学部卒。80年に厚生省麻薬取締官事務所(当時)に採用。九州部長などを歴任し、2014年に関東信越厚生局麻薬取締部部長に就任。18年3月に退官。現在は、国際麻薬情報フォーラムで薬物問題の調査研究に従事している。著書に『マトリ 厚生労働省麻薬取締官』、『スマホで薬物を買う子どもたち』(ともに新潮新書)、『ナルコスの戦後史 ドラッグが繋ぐ金と暴力の世界地図』(講談社+α新書)など。

デイリー新潮編集部

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