トランプ政権を揺るがす「オピオイド危機」…アメリカで年間10万人の命を奪う「史上最悪の麻薬」は日本にも上陸するか?
本来は「医療用」なのに
(4)医療用なのに、なぜこのような強力な麻薬を製造する必要があるのか。
――麻薬医薬品は人を助けるものであることを改めて理解してほしい。同じ麻薬性鎮痛剤でも、より少量で十分な効果があり、可能なら副作用(あらゆる副作用)の少ないものを創薬してゆく。これが重篤な患者を助けることに繋がる。フェンタニルの誘導体(※構造母体が同じフェンタニルの兄弟と理解してもらえばいい)に「レミフェンタニル」という物質がある。これはフェンタニルを遙かに凌ぐ強度と速効性を有し、患者の全身麻酔の導入及び維持における鎮痛剤として手術現場でなくてはならない薬剤となっている。ある文献にこう書かれていた。「長時間投与においても体内に蓄積する危険性が少ない」「鎮静・鎮痛用量の調節性が優れている」「呼吸抑制の遷延する(続く)リスクが低い」。
(5)テレビに映し出されるアメリカのフェンタニル使用者は、ゾンビのようにボーっとして身動きひとつしない。一体、どういった状態にあるのか?
――筆者は薬理学者や専門ドクターでないので、正確なことは言えない。ただ、フェンタニルを摂取することにより、まずクスリの切れ目に発現する苦痛が取り除かれ、同時にダウナー系麻薬がもたらす多幸感に包まれる。使用者はこの刹那的な快感に浸っているのではないのだろうか。場合によっては、呼吸低下や傾眠・昏睡状態に陥っている可能性もある。いずれにしても使用者が密造フェンタニルに侵されていることは間違いない。
(6)フェンタニルと他の強力な薬物が混ぜられたものが密売され、さらに深刻な問題が生じていると記事で読んだが?
――そのとおり、フェンタニルにトランクという商品名の動物用医薬品が混ぜられたものが密売されている。トランクの成分はキシラジンという動物麻酔で、これを加えることによりフェンタニルの効果が長引くとさているが、そのエビデンスはよく分らない。一方で、キシラジンはオピオイドではないため、ナロキソン (ナルカン) は効かないという事実がある。そのため混合物はフェンタニル単体よりも危険性が高いと言うことができる。アメリカ東部(メリーランド、コネチカット、ペンシルベニア等)で、最近亡くなったフェンタニル使用者約3000人からキシラジンが検出されたとの報告がこれを裏付けているとも言える。さらにキシラジンの慢性的な使用は血管を収縮させ重度の皮膚潰瘍を引き起こすとされており、昨年、我々が面接した元使用者は膿瘍や皮膚潰瘍の痕が痛々しく残っていた。足が壊疽し切断した人も多数おり、「もはや薬物使用の世界ではない、薬物はここまで人を破壊するのか」と、改め認識した次第だ。
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