トランプ政権を揺るがす「オピオイド危機」…アメリカで年間10万人の命を奪う「史上最悪の麻薬」は日本にも上陸するか?

  • ブックマーク

なぜこれほど多くの犠牲者を生むのか?

「中国からメキシコやカナダ経由で大量の合成麻薬フェンタニルがアメリカに流入し、多くの人々が殺され、家族が崩壊している。カナダ、メキシコ、中国には関税を大幅に追加する」

 皆さんも知っての通り、これは1月20日に再選を果たしたトランプ米大統領が繰り返ししている発言だ。不法移民対策や経済対策を絡めたものと思われるが、これを聞いて改めてフェンタニル問題を認識した読者も多いのでないだろうか。

 なぜフェンタニルなどのオピオイドがアメリカで蔓延したのか。トランプ大統領が今後どのような対策を講じようとしているのか。そうした事柄は時期を改めて解説したい。その前に、よく尋ねられるフェンタニルに関する質問について、私の見解を紹介しておこう。

(1)フェンタニルなどのオピオイド系の薬物は、どうしてこれほど多くの犠牲者を生んでいるのか。

――オピオイドなどのダウナー系薬物には、呼吸抑制や嘔吐、めまい、頭痛、便秘、幻覚、排尿障害といった副作用がある。常用すると依存症に陥るのは無論のこと、同量では効かなくなる現象、いわゆる「耐性」が生じる。ダウナー系のドラッグはこの耐性が生じ、増悪しやすく、使用量が容易に増えてゆく。加えてフェンタニルの致死量は2ミリグラム(塩粒10~20粒分)とごく僅かだ。使用量が増えれば、どうなるか――。過剰摂取となり、直後に呼吸抑制が始まる。そして死に至る。さらに、もう1点、フェンタニルは他のドラッグに混ぜられることが多い。粗悪なヘロインや大麻、またベンゾジアゼピン系の睡眠薬に“効果増強剤”として混入される。オキシコドンなどの模倣錠剤に含まれていることは珍しくない。混ぜ方も杜撰で、致死量を超えているものも確認されている。使用者はそれを知らずに薬物を使う。するとどうなるか。当然ながら、死へと繋がる。

喫煙や注射だけでなく“シートを腕に貼って摂取する”ことも

(2)ヘロインではなく、なぜフェンタニルが蔓延するのか。

――ヘロンインは“麻薬の王”として、いまでも世界を席巻している。その製造には原料のケシが必須である。ケシからあへん、そしてモルヒネを抽出し、モルヒネを原料に密造される。つまり、ヘロインの販売量や価格は違法栽培されるケシ(あへん)の収穫量に大きく左右されるわけだ。植物の成育は、高温や異常降雨といった気候変動に直接的な影響を受ける。一方、合成オピオイドであるフェンタニルは化学合成するため、原料植物が不要になる。合成方法も確立しているため、技術と施設さえあればいくらでも作ることができ、安価に提供される現状がある。

(3)フェンタニルはどのように摂取するのか。また、通称はあるか。

――フェンタニルは注射にはじまり、コカインのようにスニッフィング(鼻腔吸引)したり、喫煙、経口摂取したりする。また、LSDと同じく紙に浸して口腔粘膜から吸収することや、テープ(シート)に染み込ませたものを腕などに貼って皮膚吸収させるなど、様々な方法で使われている。通称名は多岐に亘るが、以下のような呼び方がある。<アーペース、チャイナ・ガール、チャイナ・タウン、ダンス・フィーバー、フレンド、グッドフェローズ、グレート・ベア、ヒー・マン、ジャックポット、キング・アイボリー、マーダー8、ポイズン・アンド・タンゴ・アンド・キャッシュ、ブルーピル、M30s。ラテンアメリカではホワイトまたは合成ヘロイン、N、小さな悪魔>など……。

次ページ:本来は「医療用」なのに

前へ 1 2 3 4 次へ

[2/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。