トランプ政権を揺るがす「オピオイド危機」…アメリカで年間10万人の命を奪う「史上最悪の麻薬」は日本にも上陸するか?

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第1回【ヘロインは「死ぬかも…」だがフェンタニルは「死ぬ!」 “ゾンビタウン”が急増するアメリカで元マトリ部長が目撃した“悪夢のような光景”】の続き

かつてないほどの死者の数

 昨年末頃だったか、テレビでフェンタニル使用者の映像が流れていた。「彼らはゾンビと呼ばれている」などと報じられた通り、確かに見た目は映画に出てくるゾンビに似て、実際にアメリカではそう呼ばれている。【瀬戸晴海/元厚生労働省麻薬取締部部長】

(全2回の第2回)

 10年ほど前のことだが、「合成マリファナ(Synthetic Marijuana)」(※日本では危険ドラッグの一部)と呼ばれる「合成カンナビノイド類」が、“K2”や“スパイス”などの商品名で多くの国で流行し、多数の人が亡くなった。日本でも短期間で100人を超える犠牲者を出したことは記憶に新しい。

 アメリカでは数万人が亡くなり、この時も使用者は「ゾンビ」、汚染地域は「ゾンビタウン」と揶揄された。それでも当時のゾンビが路上で簡単に死ぬことはなかった。俄に暴れ出す者や運転中にカタレプシー(※身体が硬直してコントロールできなくなる)を発症して悲惨な交通事故を起こす者はいたが、路上で息絶えるゾンビは見たことがない。ところが、近年のアメリカでは、フェンタニルに蝕まれた新しいゾンビ達がバタバタと命を落としている。

 CDC(米国疾病管理予防センター)は、2019年11月~23年10月までに、フェンタニルを含むオピオイド(麻薬鎮静剤)の過剰摂取で約27万人が死亡したと発表。なかでも21年8月~22年8月の1年間に限ると犠牲者は10万7735人に達し、50歳以下のアメリカ人男性の死因のトップになっているという。グラミー賞を7度受賞したロックスターのプリンス、あるいはロックバンド「トム・ペティー&ザ・ハートブレイカーズ」として人気を獲得したトム・ペティ、ラッパーのマック・ミラー、ロサンゼルスエンゼルスの投手、タイラー・スカッグス、俳優のフィリップ・シーモア・ホフマンやアンドロ・デニーロ(ロバート・デニーロの孫)もフェンタニルやヘロインといったオピオイドに命を奪われている。

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