神風特攻隊として散った現役プロ野球選手「石丸進一」 特攻命令が出たその日「これで思い残すことはない」と投げた“最期の10球”(小林信也)

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「俺は野球じゃ」

 今夏(2025年)、終戦から80年を迎える。戦争によって奪われた幾多の青春を忘れるわけにいかない。

 鹿屋への異動命令が下り、友人から最後の言葉を書き残すアルバムを渡されると、「葉隠武士 敢闘精神 日本野球は」と書いてペンを止めた。「この期に及んでまだ野球か」と言われ、「おう、俺は野球じゃ、俺には野球しかないんじゃ」と怒鳴る様に言い残し、進一は鹿屋に旅立ったという。

 兄・藤吉も語っている。

「あんな野球好きと会ったことがない」

 誰よりも野球が好きだった進一が特攻を志願し、犠牲になった。そのような選択をせざるを得ない重苦しい時代を、繰り返していいはずがない。

小林信也(こばやしのぶや)
スポーツライター。1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部などを経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』『武術に学ぶスポーツ進化論』など著書多数。

週刊新潮 2025年1月30日号掲載

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