シーズン3配信日決定「イカゲーム」が世界を熱狂させる理由 「民主主義」と「平等」の欺瞞が浮き彫りに
参加者たちを罰するための「監獄」
参加者全員が「制服(緑色のジャージ)」と「番号」で管理されていることも、「イカゲーム」の大きな特徴だ。加えて、主人公のギフンが目覚めた場面を見れば、各々のベッドを始めあらゆる場所に監視カメラがあることにも気づくはずだ。
こうした手法は、フランスの哲学者ミシェル・フーコーがいうところの「規律権力」に類するものだ。「規律権力」とは、所属する人間の「身体」「空間」「時間」を意図的に制御することで権力に従順な人間を作り上げるもので、近現代における組織の管理と統治に多く用いられてきた。
軍隊や学校における、制服をはじめとする衣服着用のルール、管理者による一望監視が可能な空間構成(パノプティコン)、決められた座席や移動の際に強いられる隊列、起床や食事などが細かく決められたタイムスケジュールといったものをイメージすればわかりやすい。フーコーによれば、そうした管理方法から誕生したのが近現代の「監獄」で、それは閉鎖空間における秘密裏の強制的な権力行使によって人間を処罰し矯正する場所である。
「イカゲーム」はまさにその再現だ。つまるところ無人島に作られた施設は、シリーズを通じて何度も「生きていてもなんの役にも立たないスレギ(ゴミ)」と形容される参加者たちを罰するための「監獄」とも言えそうだ。
「名前」と「顔」を奪われた、強固な階級社会で起こること
参加者を最底辺として形作られるヒエラルキーの存在も、この世界を補強する。運営側の進行係には、下から順に「◯(雑務担当)」「△(兵士)」「□(管理者)」の階級が存在するのだが、シーズン1はその「◯」と「△」の生活(時間割をされた作業、独房のような監視カメラ付きの部屋、上官より先に言葉を発しないルール)を垣間見せ、さらにシーズン2では、彼らが実は参加者とたいして変わらない(もしかしたら、若さゆえにそれ以下の)人生を生きていることも明かす。
つまり「◯」と「△」は、たとえばかつてのローマ人が奴隷を管理するために、特権的地位を与えた一部の奴隷と変わらない。韓国では映画「パラサイト 半地下の家族」がよく似た状況を描いていた。「地上」の人間に特権的な仕事を与えられた「半地下」は、自分たちは「地下」とは違うと考える。そして、自分が手にした僅かな特権とプライドを守るために、「地下」を蔑み攻撃する――ように仕向けられているのだ。
だが実のところ「地上」の連中は、「半地下」も「地下」も同じように蔑んでいる。ただ彼らが連帯して攻撃の矛先を「地上」に向けると面倒なので、彼らを分断させるために「半地下」を特別扱いしているだけだ。移民排斥を煽るトランプ政権を始め、あらゆる国のあらゆる政権が使ってきた、あるいは今も使っている「分断統治」という手法である。
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