「毎月120万円」の高額治療を可能にしたのは、「大暴落」前の全株売却だった…森永卓郎さん死去 本人が明かしていた“前向きながんとの向き合い方”

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2つの治療法

 これを受けて、森永さんは治療方針を以下のように定めたという。

「がんは、誰の体の中でも毎日発生している。それを免疫細胞が毎日殺している。がん細胞軍団と免疫細胞軍団が、毎日合戦を繰り広げているのだ。ただ、何らかの理由で免疫細胞が劣勢になると、一気にがん細胞が支配的になる。それががんの発症だ」

「普通のがん治療は、抗がん剤や放射線を使ってがん細胞を抑え込みに行く。ところが私の場合は、がん本体(原発がん)がどこにあるのか分からないから、それができない。唯一残された手段は、免疫細胞を元気にすることだけだ」

 そして、選んだのは2つの治療法だ。

 一つは、オプジーボという免疫チェックポイント阻害剤の投与。ノーベル賞を受賞した本庶佑名誉教授の研究をもとに作られた新しいタイプの治療薬である。

 もう一つは、「NK療法」と呼ばれる治療で、採取した血液のなかから免疫細胞を増殖培養して体に戻す治療だ。

 しかし、両者共に高額な費用がかかる。

「月に一度、オプジーボの投与を受けているが、保険適用の3割負担で、二十数万円の費用がかかっている。一方、月に2回受けているNK療法は、完全な自由診療で、1回40万円の費用がかかっている。その他の医療費も含めると、私の毎月の医療費は120万円ほどの持ち出しになっている。そのスピードで、預貯金が減り続けているのだ」

「大暴落」の前に……

 とてつもない金額である。しかし、それでも森永さんは「当面の費用負担に問題はない」と語っていた。なぜなら、

「2023年7月に生前整理の一環で、私はすべての外貨や投資を処分していた。これは本当に偶然なのだが、処分した日の為替レートは160円台、日経平均も4万円を大きく超えていた。つまり、最も高値で売り抜けることができた。そのおかげで三千数百万円の資金が転がり込んできたのだ。いまは、それを毎月食いつぶしているので、あと数年は、資金繰りに問題はない」

 森永さんが株を売却したのは昨年7月12日。一方、記憶に新しい、日経平均が4451円安と1987年のブラックマンデーを超える過去最大の下落幅となった「大暴落」は、昨年8月5日のことだった。

タバコは1日20本

 上記2種類の治療を続けた森永さん。がん細胞は小さくなってはいないが、大きくもなっていないという状況が続き、余命4カ月と言われて以後、1年以上も生命を保ち続けていた。その要因として、森永さんが手記で挙げていたのは、「前向きな気持ち」「精神的な部分」の持ちようである。

「私ごとになってしまうが、拙著の『書いてはいけない――日本経済墜落の真相』(フォレスト出版)が30万部の大ヒットとなったおかげで、出版社から新著の執筆依頼が殺到した。私はそれをすべて引き受けた結果、2024年8月は、1ヵ月で13冊の書籍を書き終えることになった。普通に書いていたら、締め切りにとても間に合わない。そこで、私は8月の1ヵ月間を毎日完全徹夜で過ごした。一日数時間寝落ちはしているが、24時間キーボードをたたき続けたのだ」

 毎日、睡眠不足との闘いであるし、タバコも一日20本以上、吸っていた。それでも体調は悪化するどころか、改善に向かっていたという。

 森永さんはこう述べていた。

「現在何をメインに取り組んでいるのかというと、『寓話』の創作である。紆余曲折の末にたどりついた道だが、当面の目標は『打倒イソップ』だ。イソップは、生涯で700編あまりの寓話を書いたが、私はいま数年でそれを抜こうと考えている。私の寓話集第一巻(『余命4か月からの寓話』興陽館)はすでに刊行され、第二巻もすでに脱稿している。ただ、イソップを抜くためには25巻まで刊行しないといけない。それを短期間で遂行するのは、そこそこ大変な作業になる。ただ、そのことが、最近の私の最大のモチベーション、前向きの気持ちの源泉になっているのだ」

「私がいま一番楽しくて、前向きの気持ちになれるのが、寓話の創作をしているときだ。特に創造の泉が噴出して、次々に新しい物語が生まれ出てくるときの興奮は、何よりも大きい。それが私の免疫を高めていると思えてならない」

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