「堺」の姓を継いだ次女… 堺正章が明かす「心臓がキュッとした」大物俳優から聞かされた「娘の評判」
次女の演技について、伊東四朗さんから手紙が届いた
女優としてデビューした小春が、芸名として「堺」の苗字を選んだのはなぜだと思うかと記者さんたちから聞かれたときは、
「なんでだろうね〜。多分、小春はお小遣いが欲しかったのかな」
なんておどけてみせたけれど、これは完全な照れ隠しだ。「芸能界ってとこは面白いから、あなたもやんなさいよ」なんて、僕が娘たちに言ったことは一度もない。でも小春は、小さい頃にたまたま観に行った舞台「アニー」に興味を持ち、そこから自主的に女優の道を志した。その結果、夢が現実となり、そのうえ「堺」の苗字まで継いでくれた。家族から三代目が出たことは、本当に感動的な出来事だ。このときほど、「子どもがいてよかった」と思ったことはない。涙が出るほど心が震えた。僕が人生で受け取った、いちばん大きな贈り物だ。
堺小春としての初舞台を観たときは、とにかく心配が先立った。堺小春はどんな演技をするのだろうか――。それまでも子役として舞台に立ったことはあったけれど、この名前を継いでからの舞台には、独特の感慨深さと同時に、妙なドキドキを感じて落ち着かなかった。観劇した際に心に感じたことを、そのまま言葉に表すのは難しい。けれど、なんというのだろうか、ふわりと堺駿二のDNAが漂う演技だった。何年か前、本多劇場での舞台「みんながらくた」に小春が出演したとき、主演の伊東四朗さんから手紙をいただいた。
ちょっと心臓がキュッとした。何が書いてあるのだろうか、とおそるおそる封を開けた。
「恐怖を感じるほどすごい舞台俳優さんだから、小春ちゃんはどこに出しても恥ずかしくないよ」
丁寧な文字で書かれた便箋には、そんなおほめの言葉が連ねてあり、心から安堵させられた。「舞台俳優」という彼女の肩書きを目にすると、なんだかすでに、僕よりも娘の方に重みがあるような気にもなってくる。 僕自身、二世タレントだったわけだが、父と同じ俳優ではなく、「歌手」という肩書きから芸能生活をスタートさせた。父は歌謡界とは接点を持たずにいたから、それなら父に余計な心配や気遣いをさせずに済むだろうと踏んでのことだった。
その点は小春も似ている。同じ芸能界といっても、彼女が目指したのは舞台演劇の世界であり、ジャンルが違っていた。だから僕は、なにひとつ手助けしなかった。「とにかく自力でやってみなさい」と言っただけだ。強いて言えば、こんなひとことをつけ加えたくらいだ。
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