中学受験でわが子が「全落ち」したら…親が「かけるべき言葉」と「かけてはいけない言葉」

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過去より未来にフォーカス

 では実際に1校も合格できなかった場合、親は今後どう子どもに向き合っていくべきだろうか。筆者が行った61の塾関係者への取材によれば、最善の策は「親がごちゃごちゃ言わない」「反省はしない」だという。

「そもそも、全落ちした本人が一番傷ついていることを忘れてはいけません。自己肯定感の低い子どもにならないためにも、まずは、がんばった努力を認め、『落ちたこと(過去)』ではなく『これからどうするか(未来)』にフォーカスしましょう。反省するヒマがあったら『がんばったあなたを誇りに思う』ということを態度や雰囲気で示し、心の傷を埋めたいところです。今後、起死回生に向けて新しいことをするには何事もパワーが必要ですから」(東京・大手中学受験塾)

 入試の成績を開示する学校もあるが、その場合でも、子どもには見せないで内緒にしたほうがいい。過去を振り返るより未来を見よう。然るべきときが来たとき見せたらよいだろう。

 前回の記事(「受験期の親は俳優になれ」 塾60校が説く本当にやるべき「中学受験」の直前対策とは)でも述べたが、親といっしょに挑戦した中学入試の記憶は、一生涯子どもの心に刻まれる。親がダメと評価を下せば、その先、子ども自身が「自分はダメな人間」とレッテルをはってしまう可能性が高い。今後の高校・大学受験、大学生活、就職活動においても悪影響になるとも考えられる。

オーバーにほめるくらいがちょうどよい

 塾関係者によれば、結果が出た直後に親が子にあえて言葉かけをするならば、受験を通して知った子どもの凄いところ、成長したところを具体的にほめることがベターだという。

「たとえば『一緒にがんばってくれてパパはうれしかったよ』『ノートの文字がすごく綺麗でびっくりしたよ』『難しい難関校の算数がかなりできるようになって驚いた』など、何でもよいので、とにかくほめることが大事です」(横浜市・大手中学受験塾)

 この言葉かけは、ちょっとオーバーなくらいが子どもの記憶に残りやすくてちょうどよいと塾関係者の多くが力説する。大人からしたら何でもない小さなことでも、子どもにとってはうれしくて、中学入学後に良い意味で変貌する子もいるという。

「親からの小さな声かけの積み重ねによって、中学受験の失敗から自信を取り戻し、さらに強くなって高校受験では日比谷、横浜翠嵐、浦和、県立千葉など首都圏の公立トップ高校に最上位の成績で合格した例も多くあります」(東京・大手高校受験塾)

 筆者からも一言言っておく。中学入試は、通過点なのだ。今の失敗を引きずらずに、いかにバネにして、さらなる高みを目指すか。そして子どもの“アイデンティティ”をどこに作るのか。それを仕掛けるのがこれからの親の役割だ。

 まずは、親子でパワーをチャージしよう。親子で過ごす時間を増やしてみるのもよい。親離れしてくる中学入学後、そんな時間はぐっと減ってしまうのだから。

 近所にドライブに行ったり、受験勉強でかなわなかった海外旅行もあり。博物館、動物園、ディズニーランドでも何でもよい。これから暖かくなる季節、ちょっと出かけてみよう。

〈後編の記事【“全落ち”でも「中学受験」の経験が強みに 高校・大学受験で逆転するための意外な方法】では、中学受験の経験自体が大きな強みになる理由や、高校・大学受験での“逆転法”などについて詳述している〉

西田 浩史(にしだ ひろふみ)
追手門学院大学客員教授、ルートマップマガジン社 取締役・編集長、教育ジャーナリスト。2016年ダイヤモンド社『週刊ダイヤモンド』記者、塾業界誌記者を経て、19年追手門学院大学アサーティブ研究センター客員研究員、20年から現職。全国5000にも及ぶ塾の関係者(計20,000人)を取材。著書に『大学序列』(週刊ダイヤモンド特集BOOKS ダイヤモンド社)など。

デイリー新潮編集部

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